ファンタジー:個人タクシー「金遁雲」の冒険独白(10-3)

【大紀元日本10月10日】私は、ポリの簡易容器に盛られた酸辣湯を薦めらて、それを啜りながら「・・では、劉神父は、台湾国籍だということですか・・」と水を向けてみた。劉はそれには答えず「・・私の祖祖父は、現地の高砂族の女性と結婚しました・・ですので。。」と言うと、場内が一瞬、水を打ったように静まり返った。何かを悟った私は、「・・・いえ・・これは聞きにくいことを聞いてしまったようで・・気にしないで下さい」と言うなり、食事も早々に切り上げ、劉の教会を後にした。

後日・・私が早朝から神宮外苑を流していると、どこか見慣れた黒スーツの輩が、球場近くの路上の赤く色づき始めた街路樹の下で、頭を深々と下げて待っている。三角巾で手を吊っているので、誰かと思ったら、くだんの青山地上げ屋「龍紋会」の企業舎弟だ。

私は、何か興味を惹かれたので車を止め、「・・・おい!その後、腕の具合はどうだ?骨はくっ付いたのか?」と訊いてみた。企業舎弟は、盛んに頭を掻きながら「・・白蘭地XOを牛乳に替えて、治療に専念し・・」と言うので、「今度は妙に神妙になって・・それはよかったな!」と行こうとしたら、「・・すみませんが・・」と引き止める。

「実は・・近くデカイ六輪の取引があるんですが・・相手が全く素性の分からない不気味な野郎で・・」と色を失っている。「不気味って・・おまえも充分不気味だろう・・それで、相手はどんな奴なんだ」、「・・・それが奇妙な奴で・・日頃は、どうもアングラな宗教団体をやっているらしいんで・・在留の中国人らしいんですが、国籍不明なんです」「・・・それで用心棒代わりになってくれというのだろう・・俺の神通力は、そんなことには使えないぞ!」と斬り捨てると、さっさとその場を離れた。

その日の夜、私はJR浜松町駅近くの路地裏を入った中華料理屋「湯王」にいた。ここのスープは、具材がバラエティに富んでいるとともに、食譜の種類も豊富なので、大都会の運転で擦り切れそうになる「精・気・神」を回復させるのにうってつけなのだ。まさに「地丹」だ。

既に店の主人と懇意になった私は、食譜を眺めながら「・・何か、精力が回復しそうなスープはありますか?」と訊いてみた。上海出身の主人は「このあいだ、亀が入ったが・・」という。「・・亀のスープ・・大陸以来、久しく口にしていないなぁ~」と思い注文した。

料理が運ばれてくる間、私は店の掛け軸をボンヤリと眺めていた。李白の詩らしく「・・処世若大夢・・胡為労其生・・」と読める。「そうだよなぁ~」と実感している内に、料理が運ばれて来た。小さな磁器の壷に入ったスープを啜っていると、何かしらさっきから足元を「コツ!コツ!」と叩くものがある。

それは果たして「神亀」であった。神亀は、人の言葉を解するので「・・何の用か?」と意念で訊いてみる。すると、「・・ついて来い・・」と言うので、了解すると、それはふっと浮かび上がり、腰の辺りまで浮遊すると、空中を遊泳し始めて店の玄関の方まで誘導し始めた。

早々に会計を済ませ、神亀の誘導する方へと歩を進める。辺りは、初秋らしくもうとっぷりと陽が暮れて、冷気が漂い始めている。神亀は、浜松町の世界貿易センタービルの横を擦り抜けると、JRのガード下を潜り抜け、海岸の「竹芝桟橋」の方角へと向かっている。この先は、宵の口から丑満つ時に掛けて、犯罪が起こりやすくなる「隠蔽された」危険地帯だ。警らの警官でも好んで踏み込もうとはしない、照明の少ない倉庫街だ・・・

(続く)