【大紀元日本7月16日】昔、或る所に世間の俗事に全く興味を持たない男がいた。俗事に興味がないので商売にも身が入らず、なまけものではないのだが、当然の如く世間知らずなために貧乏であった。
そんなある日、男の友人が「仏の教え」について紹介してくれた。聞くと、大川の向こうの山腹に寺があり、多くの青年たちが修行に励み「得度」しているという。「これはいいや・・・」もうこの世には未練もない。「いっそ山の寺に篭って修行に励もう・・・そうすれば何かが掴めるかもしれないぞ・・・」男はそうつぶやくと修行に出る決心を固めた。
大川のほとりに着くと船頭がおり、「お若いの、修行ですかな・・・・禁欲生活はその歳ではつらいかもしれませんよ」と声を掛けてきた。男はかぶりを振りながら、「いや何々!私は俗事には興味がなく、天下人の名すら知りません・・・当然の如く貧乏で未練すらないのです」というと、いくばくかの銭を渡して船を出してもらった。
向こう岸に着くと、船頭が「もう後戻りできないかも・・・」と微笑みかけると、男は「もとより承知」と言うなり上陸し、勇躍として山門を抜け法門を叩いた。「入門したいのだが!」。中からは意外にも小僧が応対に出てきて「仏が先か、おまえが先か!?」と妙にませた質問をしてくる。男が答えに窮していると、そっと法門が開いた。
男は修行に励んだ。元より俗世には興味がない男だったので、一旦座禅をすると雑念がまったくなくなり、一時・・・二時しても微動だにせず、それは先に入山した兄弟子たちをもあきれさせるほどの定力であった。修行が進むこと幾星霜、男の心境は高まり、心は澄み切るようになった。しかし何かが足りない、第一「師匠」たる座主の姿が全く見えない。どこにおられるのだろうか・・・?
男は焦った。「もう寺には、私を凌駕するような兄弟子もいない・・・この胸中の空白は何か!?何かが足りない・・・何かが・・・・」そう自問自答していると、小僧がそっと寄ってきて耳打ちした。「座主は・・・・あそこだよ」そういうと外を指差した。それはくだんの船頭であった!男はその船頭の川を渡す背中を観て悟り、勇躍して出山を決意したという。
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