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【独占】農薬・化学肥料から距離を置き 伝統と再生を探るアメリカの牧場主

アルファルファ・ゾウムシは、アメリカ西部の牧場主にとって悪夢のような存在です。霜が解けると姿を現し、葉を食い荒らして穴だらけにし、作物の収穫に深刻な被害をもたらします。被害を軽減する方法がないわけではありませんが、早めの刈り取りや家畜の放牧、アルファルファと牧草の輪作などがありますが、それでも多くの農場主は殺虫剤の使用を選んでいます。

北ワイオミング州で三代続く牧場主、R.C.カータ―さんは、1.5ガロンの濃縮農薬を使って60エーカーのアルファルファ畑に散布したときのことを、今でも鮮明に覚えています。

「アルファルファ・ゾウムシを駆除するためにこの化学薬品を散布していたとき、説明書には皮膚に触れないようにと書いてありました。でも、なぜか脇の下に付着し、それがまぶたにも広がってしまったんです。焼けつくような痛みが三日間も続き、水で洗っても全くよくなりませんでした」と、彼は自分の牧場でエポックタイムズの取材の際に語っています。

歴史的に見ると、アルファルファの栽培農家はかつてヒ素を含む殺虫剤を使用していましたが、これらはすでにほとんどが廃止されましたが、まだDDTは使用されていました。しかし、分解されにくく生物体内に蓄積しやすいこと、さらには発がん性の問題から、現在では使用が禁止されています。

近年では、害虫が新世代の化学薬品に対して耐性を持つようになり、牧場主たちはさらに大きな課題に直面しています。

カータ―さんの妻で、ワイオミング州で五代続く牧場主でもあるアンニアは、当時のあの独特な臭いを今でも覚えていると言います。「そのとき私は、『年を重ねれば、人は病気になるものだ』と思ったんです」

その後まもなく、彼らはアメリカで最も広く使用されている除草剤であるグリホサートの健康リスクについて知ることになります。初期の研究では、特定の土壌条件下では、グリホサートが最長22年間も残留する可能性があることが示されていました。

アンニア・カーターさんはこう語ります。「つまり、最初の一年だけ使ったとしても、土壌の中には残り続けるということです。あらゆるものに染み込み、消えることはありません」

この経験が、カーター家にとって大きな転機となりました。それ以降、彼らは牧場経営を「再生型」、あるいは包括的な農業へと転換し、1,400頭以上の牛を放牧しながら、在来の牧草を再生させることに力を注いでいます。化学農薬や化学肥料を使わず、耕起や単一作物の栽培も行わず、土壌を健康にすることを目指しています。

カーターさんは腰をかがめ、背丈の高く生い茂った草やアルファルファをかき分けると、丸々と太ったナメクジや、粒状になったミミズの糞を見せてくれました。

こうした「土壌の生きもの」の存在は、土壌が回復している証であり、水がしっかり浸透している兆しでもあるため、彼を大いに興奮させます。カーター夫妻は牧草地の有機物量を定期的に測定しており、牛を放牧したあとに土地を休ませた区画では、有機物量が着実に増え続けていることを確認しています。

彼らの牧場は7,000エーカーの広さを持ち、「テン・スリープ」という町の近くにあります。この町の名前は、馬で歴史あるスー族のキャンプ地へ向かう途中に10泊必要だったことから、その中間地点として名付けられたという言い伝えがあります。牧場はビッグホーン山脈の麓に位置し、乾燥した荒地と緑豊かな川沿いの谷が交わる場所にあります。

「私たちはずっと、いわゆる従来型の換金作物を育ててきました。その頃は、何が問題なのか分かっていなかったんです」と彼は言います。「でも、やがてこれは違うと気づき、では出口はどこにあるのかを探し始めました」

その答えを見つけようとする過程で、彼らは地域社会から距離を置かれていることを知り、激しい議論の両極に挟まれる立場になりました。一方には従来のやり方を続ける牧場主たちがいて、もう一方には「再生型農業は、有害な農業に緑の衣を着せただけだ」と考える自然保護主義者たちがいます。

しかし、カーター一家は、こうした対立の根底には誤解があると話しています。

ワイオミング州テン・スリープ町郊外の農場。(John Fredricks/エポックタイムズ)
ワイオミング州北部の州境に立つ歓迎の標識。(John Fredricks/エポックタイムズ)

 

衛星技術を活用して牛の移動を管理する

青々と生い茂る牧草地を縫うように歩き、新しい牛糞の山にいくつも跨いで進むと、約700頭のブラック・アンガスの雌牛たちが好奇心いっぱいの視線と連続した「モー」という鳴き声で迎えてきます。そんな中、カーター夫妻はそのうちの一頭に向かって名前を呼びかけました 。ステイシーです。

「元気かい、きれいなお嬢さん?」とR.C.カーターさんが声をかけると、ステイシーは近寄ってきて、撫でてもらうのを待ちました。この雌牛は、母牛に見捨てられた「捨て子」で、ひと夏のあいだ、カーター夫妻と3人の息子たちが交代で哺乳瓶を使って育てました。牧場でペットのように飼われている牛です。

「ここだ!」と言いながら、彼はステイシーの臀部を力強くかきました。するとその小さな雌牛は、お礼をするかのように後ろ脚を一本、穏やかに持ち上げました。

カーター一家は、自分たちの土地に加えて、土地管理局(BLM)が管理する3万2,000エーカーの土地でも放牧する権利を持っていますが、これが自然保護活動家たちの抗議を招いています。彼らは公共地での畜産規模を制限しようとしているのです。

カーター夫妻によると、議論の両側にいる批判者たちは、彼らが過放牧をしていると非難しますが、その過程や長期的な視点を理解していないといいます。

「人々は土地管理局に電話して、私たちが土地を壊していて違法だと言います。見た目には確かにそう映るでしょう」とR.C.カーターさんは語ります。「でも、私たちの戦略を理解していないんです。これは長期的な計画なんです」

カーター夫妻は、一つの区画で少数の牛を長期間放牧する方法は選ばず、高密度・短期間で放牧し、牛群を頻繁に移動させる方式を採用しています。場合によっては毎日、あるいは一日おきに移動させ、現在はその管理にバーチャルフェンスを活用しています。

この考え方は、実は非常に古い方法に基づいています。

「私たちはただ、バイソンの行動を真似しているだけなんです。柵ができる前、そして人間が来る前に、ここにあった生態系を再現しようとしているのです」とアンニアさん語ります。

バイソンやアンテロープのような大型の草食有蹄動物は、長いあいだ大平原に生息し、草を食べ、自然に肥料を与え、土を踏み固めることで、土壌と種子を混ぜ合わせてきました。

数千年にわたり、何百万頭ものバイソンや他の草食動物が西部の牧草地を移動し続け、その結果、炭素を豊富に含む土壌と多様な生態系が形成されました。カーターさんたち牧場主は、この古代の設計図に倣い、失われた生態系を取り戻そうとしているのです。

「衝撃を与えることが必要なんです。牛の蹄で糞を土に混ぜ込み、種を土の中に踏み込ませるために」とR.C.カーターさんは語ります。

2025年10月14日、牧場主カーター夫妻が自分たちの乳牛を点検している様子。(John Fredricks/エポックタイムズ)

ステイシーを含む約700頭の雌牛の首には、太陽光充電機能付きの首輪が装着されており、この首輪が衛星塔へ信号を送信します。カーターさんのスマートフォンに入っているアプリには、牧場内に何頭の牛がいるかが正確に表示され、彼は人差し指で軽く画面をなぞるだけで、囲いの境界線を調整します。

アンニアさんは、これは電気ショック機能付きの首輪だが、聞こえほど恐ろしいものではないと説明します。牛が境界に触れると一度だけ軽い電気刺激があり、その前に首輪が音で警告を発します。

「牛が新しい仮想の境界に近づくと、まず振動を感じて、境界がピッと音を出します。すると、牛たちが『えっ?』とか『ああ、前に雷に打たれたことがある!』と言っているように見えるんです」とR.C.カーターさんは笑いながら「すぐに、その境界を敬うようになります」と言います。

衛星を使って首輪を装着した家畜を管理することで、牧場主は牛の行動範囲を「精密に調整」できるようになり、牧草地全体の草やアルファルファを余すことなく食べさせることができる。場合によっては、侵入してきた外来植物まで一緒に取り除くことも可能で、牛が草を選り好みすることを防げます。

「私たちは、より狭いエリアに、より多くの牛を入れて放牧しています。本気で強く放牧しているんです」と彼は言います。「その一方で、休ませる期間は以前より長く取っています。同じ場所に毎年戻ることはありません。分解と生命の循環が起こる時間を土地に与えなければ、回復はできないからです」

バーチャルフェンスは、牧場の境界や実際の柵を不要にするものではありませんが、カーター夫妻は、これによってより自然で歴史的な移動パターンに近づけると話します。そしてその方法は、より小さな範囲で繰り返し実践できます。

これは牧場主の負担も大幅に軽減します。毎日馬に乗って牛を追い、二日に一度ほど従来型の柵を移動させる作業は、家族総出で取り組むフルタイムの仕事でした。しかも、人や動物が柵にぶつかって壊すことがよくあり、アンニアさんによれば、これは想像以上に大変なことで、修理には何日もかかってしまいます。

この地域には石油や天然ガスの開発現場が多く、週末になると「開発関係者」が酒を飲み、車で柵に突っ込んでくることもあります。そうなると、カーター夫妻は「牛が逃げた、全部逃げた……まただ!」と嘆くことになります。馬で牛を探し回り、手がしびれるほど走り続ける、まさに悪夢のような日々です。

カーター夫妻は、スマート首輪を使って乳牛にバーチャルフェンスを設定し、労力を減らしながら、より広い土地を管理している。(John Fredricks/エポックタイムズ)

 

これまでに例のない再生型放牧

環境保護活動家の中には、輪牧がバイソンやカモシカなどの野生の有蹄類動物の移動パターンを再現できるという主張は、せいぜい裏付けのない言い伝えに過ぎないと指摘する人もいます。最悪の場合、それは畜産業界が広めている有害な誤った情報であり、公共の土地に家畜が与える被害から人々の目をそらすためのものだ、というのです。

生物多様性センターによると、再生型放牧には、従来型の放牧の2.5倍の土地面積が必要だとされています。同センターは、仮にすべての人が牧草飼育牛の牛肉を選び、再生型放牧が全面的に採用されたとしても、現在アメリカにある牧場では、現行の牛肉生産量の27%しか賄えないとしています。

生物多様性センターや他の団体は、問題の本質は生産方法にあるのではなく、現在の消費水準そのものにあると考えています。国連食糧農業機関(FAO)のデータによれば、アメリカ人の牛肉消費量は世界平均の4倍に達しており、どのような生産方式であっても、持続可能性を確保するのは難しいというのです。

非営利団体「西部流域保護プロジェクト」の野生生物生態学者、エリック・モルヴァル氏は、結局のところ重要なのは科学的な証拠だと語ります。

彼はエポックタイムズの取材に対し、「健全で活力ある自然生態系と完全に両立する放牧であれば、私たちはそれを受け入れる用意があります。ただ、まだそれを目にしたことがないのです」と述べています。

モルヴァルによれば、真に再生的な放牧を実現するために必要なのは、「見栄えのする輪牧計画」ではなく、根本的に放牧家畜の頭数を大幅に減らし、非常に低い水準まで抑えることだといいます。

アイダホ大学による最近の研究では、「比較的良好な」結果が示されましたが、モルヴァルは、その結果は植生利用率が18%という条件下で得られたものだと指摘します。

彼は、この研究が成果の汎用性を過大評価しているとし、「その研究が、すべての公共土地における放牧を正当化するために利用されている」と語ります。

この10年にわたる研究には、連邦政府や州政府の機関、さらには業界団体も参加しており、環境保護活動家が特に懸念しているセージブラシ(ヨモギ類)の個体数に対する放牧の影響を評価することが目的でした。

研究結果によると、「適切に管理された」放牧は悪影響を及ぼさないどころか、外来草種を減らし、健全な生息環境を整えることで、種の保全に前向きな効果をもたらす可能性があるとされています。

モルヴァルは、カーター一家が採用しているこうした「最先端」のバーチャルフェンス技術については、慎重ながらも前向きな見方をしていると話します。

カータ―夫妻の放牧方法は、環境保護活動家や従来型の手法を用いる牧場主から、過放牧だとして批判を受けている。(John Fredricks/エポックタイムズ)

「この技術を家畜管理にどう活用するのか、また牛群を本当に狙いどおりの場所へ誘導できるのかについては、私たち全員が、まだ多くを学ばなければなりません」と彼は言います。

それでも、トゲ付きの鉄線で草地を傷つけ、動物の移動経路を遮断するよりは、はるかにましだとモルヴァルは述べています。

さらに、バーチャルフェンスは、これまであまり放牧されてこなかった区域に牛を入れることを可能にし、川沿いや湧水地周辺といった「過度に食べられてきた場所」への圧力を和らげる効果も期待できます。

「そうした場所では、実際に目に見える成果を上げられるかもしれません」とモルヴァルは語ります。

カーター夫妻は、すでにその取り組みを実践していると話しています。

R.C.カーターさんは、自然の水場が常に重要な影響要因であることを認め、「だからこそ、私たちは牛群をできるだけ分散させるようにしています。首輪を使うことで、通常は行かない場所にも牛を誘導でき、その結果、良い影響を与える範囲を広げられるのです」と述べています。

ただしモルヴァルは、真の改善は、全体の放牧密度を下げることに、高密度・短期間の放牧計画を組み合わせた場合にこそもたらされる可能性が高く、後者だけに頼るものではないだろうと推測しています。
 

生態系の健全性を測る重要な指標

環境保護の立場にある人々は、在来の自然草原そのもの、そして放牧後にどのように回復していくかが、生態系の健全性を判断する重要な指標だと考えています。

モルヴァルによれば、過去に放牧によって損なわれた地域――たとえばビッグホーン盆地の広大な一帯は、現在ではチートグラスと呼ばれる侵入性雑草の「荒地」へと変わってしまったといいます。チートグラスは広範囲に広がる外来雑草で、在来の草原を駆逐するだけでなく、火災のリスクを高める原因にもなります。

彼は、「いったんチートグラスに侵入された地域では、土壌中の有機物をどれほど増やそうとしても、在来の草原が回復しない限り、野生動物の生息環境は極めて貧弱なままだ」と述べています。

一方、R.C.カーターさんは、自分たちが放牧を行っている土地では、在来草原の健全性も量もともに向上していると語ります。「チートグラスは減少し、植生の入れ替わりがはっきりと見えるようになっています」

彼によると、牧場内の牧草地の多くは複数の草種が混ざり合った構成になっており、輪牧管理のもとで耐牧性、あるいは中程度の耐牧性を持つ草種として扱われています。また、牧草にアルファルファやその他のマメ科植物を組み合わせることで、牧場の水分が保たれ、植物の成長が促進されるといいます。

モルヴァルも、バーチャルフェンスによって可能になった、短期間で集中的な放牧が、これまでになかった新しい側面をもたらしている点は認めています。

「牧場に一日だけ牛を密集して放すことで、本当に土地に取り返しのつかないダメージが生じるのか」という問いに対して、彼は「それは検証できる問題です」と答えています。

2025年10月14日、ワイオミング州テンスリープ郊外で、牛の近くの草のサンプルを調べている牧場主のRC・カーター氏。(John Fredricks/エポックタイムズ)

同時に彼は、もう一つの側面として、在来の野生動物も同じ土地で餌を得る必要があることを指摘します。

現在のカーター一家の管理方針では、この地域の植生は十分に豊かで、野生動物の採食にも対応できているといいます。

「(土地管理局からは)700頭の牛を連れて山に入ってよいと言われていて、滞在期間は2か月半から3か月です」とR.C.カーターさんは話します。

「私たちはその条件に従い、牧場全体の半分にも満たない範囲しか放牧していません。ですから、基本的には彼らの基準を満たしています。でも、管理方法を調整すれば、放牧できる牛の数は倍にできるでしょう」

モルヴァルは、業界の利害から独立した、正当な科学的研究が必要だと強調します。「畜産業が資金提供した研究から、放牧は無害、あるいは有益だという結論が出てくると、注意が必要になります。資金の出どころを見れば、その理由は一目瞭然です」

「西部各地で、特定の場所では特定の放牧方法が持続可能だという主張を何度も耳にしてきました。しかし、実際に現地を確認すると、他の地域と変わらないほどの破壊が見られることが多く、私たちはそうした主張を鵜呑みにしていません」
 

土壌と栄養

カータ―夫妻によると、過去5年間で、牧場の一部では土壌中の有機物含有量を1.1%から約5%まで高めることができたといいます。それ以前の60年間、この数値はほぼ1.1%のまま変わらず、彼らが管理方法を変え始めて初めて動きが見られました。

こうした取り組みを標準化するため、夫妻は非営利団体を設立し、第三者機関による検査を通じて再生型牧場の認証を行っています。検査項目には、土壌有機物量、炭素貯留の取り組み、ビタミンや脂肪酸の含有量、さらには重金属やその他の汚染物質の有無も含まれます。

最終的な食品評価は、土壌の健全性と栄養密度の両方を反映するもので、独立系牧場主が高付加価値市場に参入できるようにすると同時に、消費者が食品の生産過程や成分を理解できるようにすることを目的としています。

R.C.カーターさんは、この仕組みは有機認証よりも実用的だと考えています。多くの母親が表示を読み解く際に混乱しているとし、「草飼いなの? 完全草飼いなの? それって一体どういう意味?」と疑問を抱いている現状を挙げます。

(完全草飼いとは、牛が生まれてから出荷されるまでの全期間において、飼料が新鮮な牧草または乾草のみで、穀物や人工飼料を一切与えられていないことを指します)

カーター夫妻は、過去5年間で、牧場の一部の有機物含有量を1.1%から約5%まで高めたと話している。(Beige Luciano Adams/エポックタイムズ)

「抗生物質を使っていない肉や、放牧で育てられた肉なら、人はより高い価格を払ってもいいと考えます」と彼は言います。「でも、あなたが信じたいのは口約束ですか? それとも、はっきりした証拠でしょうか」

こうした根本的な転換を支持するR.C.カーターさんは、変化を歓迎しない陣営との間に立たされていると感じています。

「ある有機農業の関係者からは、『有機農業はもう限界で、これ以上よくなりようがない』と言われました。それは道路の向かいにいる人が私に言ったのと、まったく同じ言葉です。『俺たちはずっとこのやり方でやってきた』、つまり、従来の畜産です」

「でも、ゲームのルールは変わりました。私たちはこの技術を手に入れたのです。コストは低く、失敗も大幅に減り、人々にとっても取り組みやすくなりました。もし誰かが変わりたいと思うなら、そのハードルは、もう確実に下がっています」
 

彼らは本当に耳を傾けている

カーター一家にとって、再生型農業への道は、厳しく、しかも決して儲かるものではありませんでした。「私たちの余剰収入はすべて、この取り組みに注ぎ込んでいます」とアンニアさんは言います。「生活はとても質素です」

それでも彼らの努力は、世界的に深刻化する土壌劣化の問題、そしてそれに伴う生物多様性の喪失、気候変動、さらには世界の食料安全保障への脅威と重なっています。

彼らは初めて、重要な立場にいる人々が、自分たちの声に耳を傾けていると感じました。

R.C.カーターさんは、8月に農務長官ブルック・ロリンズ氏と面会した牧場主の一人です。政府は公共地での放牧拡大を支持するだけでなく、再生型農業そのものにも前向きな姿勢を示しました。

「政治は時間を費やす価値がない、口先だけの世界だとずっと思っていましたが、この経験で本当に驚かされました。彼らは本気で話を聞いていたんです」

「私たちはロリンズ長官に再生型農業について質問しました。すると彼女は、『この考え方はとても素晴らしいと思う。でも、正直なところ、私たちは何も分かっていない。何から始めればいいの?』と返してきました」

ロリンズ長官のオフィスは、エポックタイムズが問い合わせた再生型農業の実践や、西部の牧場管理をめぐる今後の政策、規制、法制度の変更見通しについて、回答をしていません。

小規模な家族経営の農場は、いま深刻な危機に直面しています。大規模な統合の進行、農村人口の高齢化、複合的な経済的圧力、そして耕作地の継続的な減少が、彼らの立場をますます脆弱なものにしています。

北ワイオミング州。(John Fredricks/エポックタイムズ)

 

新たな道を示す

カータ一一家は、転換の難しさを十分に理解しており、だからこそ信頼を生み出す必要があると考えています。

「状況はこれほど厳しく、多くの人が行き詰まっています。だからこそ、誰かが前に出て、『失敗する覚悟で試してみる。実際にこのモデルが機能するかを検証し、その結果を共有する』と言わなければならないのです」

カータ一夫妻は、自分たちの牧場を含む、地域ごとの拠点をつないだネットワークを構想しています。そこに人々が集い、学び、成功例だけでなく失敗からも教訓を得られるようにするのです。

アンニアさんは、「地形や場所、地域が違っても、人は今ある資源を生かせばいい」と語ります。

彼女は、小規模な家族経営の牧場主たちは、生き残ることに追われるあまり、持続可能性に目を向ける余裕を失っていると指摘します。現在の支援やインセンティブは方向を誤り、「取り続けること」ばかりが強調されているというのです。

「生きていくためには、もちろん収益が必要です。でも、その多くは人の健康を犠牲にして成り立っています。本当は、両立できるはずなんです。輪牧を行えば、一方的に奪うのではなく、土壌に、土地に返すことができます」と彼女は言います。

彼女はまた、ハイテクを活用した包括的なアプローチへの投資が、牧場経営の長期的な持続につながる可能性があると話します。

「新しい道を示すことができれば、もっと多くの子どもたちが牧場に残りたいと思うかもしれません」と彼女は語ります。「私たちは、自分たちが引き継いだときよりも、より良い土地を次の世代に残したい。それは土地を預かる者としての責任であり、次世代を育て、この営みをつないでいくことなのです」

牧場主アンニアさんが子豚を抱いている様子。(John Fredricks/エポックタイムズ)

最近、カータ一一家はナショナル・ジオグラフィック協会の助成金に応募しました。彼らは、「テン・スリープ」の西およそ25マイルに位置する400エーカーの土地を借りる計画です。そこではこれまで、甜菜、トウモロコシ、大麦といった従来型の換金作物が栽培されてきました。

「この研究を実際にやるつもりです」とR.C.カータ一さんは言います。「目的は、牛を一つの『道具』として使い、畑作農家が持続可能なやり方に戻れるよう手助けすることです。有機物を増やし、水質を改善し、そのうえで、これは経済的にも成り立つモデルだと証明したい」と語ります。

その土地では、これまで化学肥料や農薬、グリホサートが使われ、遺伝子組み換えの単一作物が栽培されてきました。

カータ一一家は、第三者の科学者に土壌を分析してもらい、改良の進捗を記録する予定です。「その後、実際に作物を植え、牛を入れ、ここにいる他の農家と同じように作業を進めます」とR.C.カータ一さんが説明します。

彼らは、不足している栄養を補うために複数の植物品種を試しながら、実験と観察、調整を繰り返していく考えです。

「このプロセスには数年かかるかもしれませんが、最初の一年で変化は見えてくるはずです」と彼は述べています。

R.C.カータ―さんは、このモデルが新たな常識となれば、経済的価値にも転換できる可能性があると考えています。

「これは牧場主にとってのインセンティブになるべきです。土地や水質、流出を本当に改善しているのなら、それに見合う報酬が与えられるべきでしょう」

「そうなれば、小さな波紋を起こすことができ、その一つひとつがやがて大きなうねりへと変わっていくはずです」

(翻訳編集 華山律)

ロサンゼルスおよびカリフォルニア州全域の問題を取材する調査報道記者。これまで、LAウィークリーやメディアニュース・グループの出版物をはじめとする様々なメディアにおいて、政治、芸術、文化、社会問題など多岐にわたるテーマを取り上げてきた。