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髪に記録される健康状態

健康診断と聞くと血液検査や画像診断を思い浮かべるものですが、しかし、実は見過ごされがちな私たちの健康状態を知る手がかりが、頭の上――髪の毛にあります。

見た目だけではなく、髪は体の内部状態について豊富な情報を記録する「生物学的アーカイブ」として機能します。

髪にはストレスホルモン、栄養不足、重金属曝露の痕跡が、木の年輪のように一本一本に閉じ込められています。この前提をもとに消費者向けの髪分析テストが販売されていますが、医療専門家は科学的な裏付けが一般利用に十分ではないと指摘します。

「適切に扱われれば髪の検査は正確です」と、ニューヨーク市ノースウェルヘルス医療毒物学部門主任ジョシュア・ノガー博士はエポックタイムズに語りました。

しかし彼は、結果に影響する要因が多く、信頼性のある解釈データもまだ不足していると述べています。

研究者たちは診断ツールとしての髪の可能性を探り続けており、最近の髪分析の進歩は、ストレス、栄養、物質使用が全体の健康にどのように影響するかを理解する新たな道を開いています。
 

髪を生物学的記録とする科学

髪は月に約1.3cm成長し、その成長過程で血液から栄養素、毒素、生化学マーカーを取り込みます。一度形成された髪は代謝的に不活性なため、取り込まれた物質は髪の幹に閉じ込められ、時間経過による生理的変化の時系列記録を提供します。

血液や尿検査が「その瞬間の状態」を示すのに対し、髪分析は長期的な暴露や状態を反映します。

ただし、髪が成長するには時間がかかるため、最近の暴露の検出には向きません。ノガー博士は、薬物や薬物代謝物、化学物質が毛包に取り込まれるまでに約1週間かかると指摘します。

「髪の検査では、薬物や化学物質の『極めて最近の』暴露は検出できません」と彼は述べました。

検出期間の上限は明確に決まっておらず、主に分析する髪の長さに依存するとノガー博士は説明します。例えば、1年以上前の薬物暴露や栄養不足も、該当部分の髪が切られていなければ1年後でも検出される可能性があります。

「検査対象の物質によっては、髪は慢性的な暴露や、その他の長期的な問題や傾向を捉えるのに有用です」と、オーランドのExposure Assessment Consultingオーナーで毒物学者・認定産業衛生士のアレックス・ルボー氏はエポックタイムズに語りました。
 

髪のコルチゾールでストレス検出

髪分析の中でも特に注目されているのが、体の主要なストレスホルモンであるコルチゾールの測定です。長期間にわたりコルチゾール値が高い状態は慢性ストレスと関連し、心血管の健康、免疫機能、精神的なウェルビーイングに影響を及ぼす可能性があります。

髪のセグメント(通常は直近1〜3か月分)を分析することで、臨床医は累積的なコルチゾール曝露を評価し、持続するストレスが健康にどう影響しているかの手がかりを得ることができます。この方法は日内変動がある血液・唾液検査よりも利点があるとされますが、慢性ストレスの評価はなお困難です。

ただし、この検査はまだ一般利用に向けて十分整備されていません。

グレーターチカゴ地域のHeal n Cure Medical Wellness Center創設者で、内科・肥満医の認定医師ミーナ・マルホトラ博士は、髪のコルチゾール測定は比較的新しい評価法だと説明します。

「まだ十分に標準化されていません」と彼女は述べました。
 

髪の栄養とミネラル含有量

栄養不足は髪に特徴的なサインとして残ることがあります。

亜鉛、銅、マグネシウム、鉄などのミネラルは、髪の成長中に取り込まれます。これらのミネラルレベルを測定するラボテストは、身体症状が出る前の段階で不足を把握し、免疫機能、認知パフォーマンス、エネルギーレベルに影響する可能性のある問題を明らかにする一助となります。

一部の研究では、亜鉛レベルは血液検査よりも髪の分析のほうが正確に判断できる場合があると示されています。髪の低亜鉛レベルは免疫反応の低下と関連があると言われています。

ノースウェルヘルス臨床栄養部門シニアマネージャーで登録栄養士のジル・アシュビー=ペジョヴェス氏は、子どもの軽度の不足は初期には目立つ兆候が出ない可能性があると説明します。

「より顕著な影響としては、成長の遅れや思春期の遅れが挙げられます」と彼女は述べました。「成人では味覚・嗅覚の変化、免疫低下、夜盲、創傷治癒遅延、皮膚トラブルなどが見られることがあります」
 

重金属曝露のモニタリング

鉛、ヒ素、カドミウム、水銀などの重金属を含む環境毒素は、健康に大きなリスクをもたらす可能性があります。髪分析はこうした暴露レベルを時間の経過とともに追跡できる非侵襲的な方法ですが、環境汚染の影響を受けるため解釈が難しい場合があります。

正確に検出される高レベルの重金属は、神経系の問題、腎機能の障害、その他の全身的な健康問題と関連することがあります。髪分析は重金属蓄積パターンの把握に利用でき、いくつかのがんと関連する可能性も指摘されていますが、技術はまだ発展途上です。

しかし、この種の髪分析には限界があり、一部の毒性化学物質や金属の検出が体内の状態を正確に反映しない場合があると、ケースウェスタン大学の緊急医・毒物専門医ライアン・マリノ博士は述べています。

「たとえば入浴やヘア製品の影響で、全身の状態とは関係なく髪の化学組成が変わることがあります」と彼は説明しました。

マリノ博士は、髪分析は毒素暴露のタイミングを判断するツールとしても限界があると指摘します。

「暴露のタイミングを推定するための手法はありますが、この検査は通常、いつ暴露が起こったかを確実に区別するには不十分とされています」と彼は述べました。

一部のテストでは、偽陽性や特定の暴露を見逃す可能性もあります。

最終的にマリノ博士は、髪の検査は特別な状況で行うものであり、毒性暴露や検査に精通した専門家と密に相談し、結果を適切に解釈できる人のみが扱うべきだとまとめています。
 

人間の健康を非侵襲的に観察する窓

最近の研究は、髪分析が栄養状態や健康状態の評価に役立つ可能性を示しており、特に炎症性腸疾患(IBD)など複雑な疾患で注目されています。

微量栄養素の不足はIBDでは一般的ですが、臨床症状が進行した段階でしか現れないことがあり、診断が難しい場合があります。髪分析は微量元素やミネラルレベルを非侵襲的に監視し、体の栄養状態への洞察を提供します。

髪分析テストは自閉症児の診断や治療の改善にも利用されることがあります。1本の髪から乳幼児の自閉症スペクトラム障害に関連するバイオマーカーを特定する方法です。

このアプローチは、代謝活動のタイムラインとして機能し、発達期におけるさまざまな物質や毒素への曝露を反映し、早期の検出や介入を可能にします。
 

限界と今後の方向性

髪検査を日常的な健康評価に統合する取り組みは進んでいます。髪は体の内部状態を記録する生物学的アーカイブとして機能しますが、その情報をどこまで信頼して解釈できるかという科学は、まだ発展途上です。

科学が進めば、髪検査が予防医学の重要なツールとなり、身体の兆候が現れる前に健康状態を理解し最適化する助けになる可能性があります。しかしノガー博士は、現時点で髪分析は一般的な健康監視の方法として十分に信頼できる段階にはないと述べています。

(翻訳編集 日比野真吾)

がん、感染症、神経変性疾患などのトピックを取り上げ、健康と医学の分野をレポート。また、男性の骨粗鬆症のリスクに関する記事で、2020年に米国整形外科医学会が主催するMedia Orthopedic Reporting Excellenceアワードで受賞。