身体を動かすことが健康に良いことはよく知られていますが、新たな研究では、運動していても「座りっぱなし」は心臓に悪影響を及ぼすことが判明しました。
マサチューセッツ総合病院ブリガムの新たな研究によれば、デスクワークの長い一日の後に運動しても、「座りっぱなし」が心臓の健康に及ぼす有害な影響を十分に打ち消すことはできないかもしれません。
この研究は、米国心臓病学会誌(Journal of the American College of Cardiology)に11月15日付で掲載された研究によると、起きている間に座る・もたれる・横になるといった低エネルギー消費の活動を「座位行動」と定義し、これが心疾患、特に心不全や心血管系の死亡リスクの増加と関連していることが示されました。
しかし研究者らによれば、座っている時間を他の活動に置き換えることで、これらのリスクは大幅に低減できる可能性があるという事です。この研究結果は、シカゴで開催された2024年米国心臓協会(AHA)学術集会で発表されました。
活動量は睡眠時間とも関連がある
「多くの人が目覚めている時間の大半を座って過ごしており、身体活動の重要性については多くの研究があるものの、『座りすぎは有害か?』という漠然とした認識を超えて、その影響についてはあまりわかっていませんでした」と、研究主任のエジママカ・アジュフォ博士(ブリガム&ウィメンズ病院の循環器内科フェロー)は述べました。
この研究では、英国バイオバンクの積極的コホートに参加していた平均年齢62歳の89,530人の1週間分のアクティビティトラッカーデータが分析されました。参加者は全員、三軸加速度計(3方向の加速度を測定する装置)を手首に装着し、7日以上の間にわたって身体の動きを記録しました。
研究者たちは、1日の座位時間と将来的な4つの主要な心血管疾患(心房細動、心筋梗塞、心不全、心血管死)のリスクとの関係を調査しました。座位行動の分類には機械学習アルゴリズムが用いられました。
参加者の睡眠時間、座位時間、身体活動レベルが記録され、次の4つの座位レベルに分類されました:
- 1日あたり10.6時間以上の座位行動
- 9.4〜10.6時間の座位行動
- 8.2〜9.4時間の座位行動
- 8.2時間未満の座位行動
座っている時間が最も少ないグループは、最も活動的であるだけでなく、最もよく眠っていました。逆に、座っている時間が最も長い人は、活動量が最も少ないだけでなく、睡眠時間が最も短い傾向にあります。
5%が心房細動を発症
平均8年間の追跡調査の結果、約5%の参加者が心房細動を発症し、約2%が心不全を発症し、心筋梗塞も経験しました。
心血管関連が原因で死亡した人は約1%となります。
「運動している人でも座位リスクは依然として存在します。多くの人が『1日中座っていても、夜に運動すれば相殺できる』と考えがちですが、実際はもっと複雑なようです」とアジュフォ博士は述べています。
研究者らの分析により、座位行動は4つすべての心疾患リスクと関連しており、1日10.6時間(睡眠時間を除く)を超えると、心不全および心血管死のリスクが40〜60%増加することが判明しました。
この結果は、活動レベルにかかわらず、座ること自体が疾患リスクと関連しているとする過去の研究結果を補完するものです。2015年に発表された大規模なレビューとメタ分析では、運動習慣を調整しても、長時間の座位は心疾患、2型糖尿病、がんなどの健康リスクと関連していることが示されました。
運動していても悪影響は残る
米国の最新の身体活動ガイドラインでは、成人は週に少なくとも75~150分の激しい有酸素運動、または150~300分の中程度の有酸素運動、さらに週2回の筋力トレーニングを行うことが推奨されています。
注目すべきは、この推奨基準を満たしている人でも、座りすぎによる悪影響が残っていたことです。
「私たちのデータは、『座る時間を減らし、もっと動く』ことが心疾患のリスク低下につながるという考えを裏付けています。特に、心不全や心血管死のリスクを下げるには、座りすぎを避けることが重要です」と、研究共同責任者で心電生理学者のシャーン・クルシード博士は述べました。
筆者らは今後、長期間にわたる座位行動とその他の疾患との関係についても研究を拡大する予定です。
この研究チームは、今回の発見が公衆衛生ガイドラインの策定に役立つことを望んでいます。また、座位行動を減らすための介入の効果と、それが心血管の健康に与える影響を調べる研究にも関心を示しています。
「運動は極めて重要ですが、過度な座位を避けることも別個に大切です」と、研究共同責任者で循環器専門医のパトリック・エリノア博士は述べました。「この研究が、運動習慣を活用して心臓の健康を改善するもう一つの手段として、患者や医療従事者を後押しすることを願っています」
(翻訳編集 日比野真吾)
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