≪医山夜話≫ (28-3)

病と性格(3)

マーサは、自分の人付き合いが下手な根本的な原因はいったい何なのか、そして病気の原因は何なのかが知りたくて、再び私の診療所にやって来ました。

 マーサは私に自分の家族や母親との今までの関係を分析するかのようにゆっくりと話し始めました。「姉のアンナはとても人付き合いが良くて、何事にも気をかけず、母の自由な生活スタイルにとっくに馴染んでいました。姉の全財産は小さいスーツケース一個で、姉はいつでもそれを持って出かけられます。一方、私ときたら先生もお分かりのようにコレクションが大好きで、幼い頃にはじめて切った紙の蝶々まで未だに持っています。大人になってからも、数十箱に及ぶコレクションすべてに番号を振っていて、それらがあまりにも面倒なため、母は私の引っ越しを諦めたくらいです」

 「まるで私が母親で、母が子供のような関係が長い間続いていましたが、私がガンになってから、私と母はやっと普通の親子のように話すことができました。『マーサ、実をいうとあなたがこの病気になったことに、あまり驚かなかったの。いつかはこうなるのではないかと思っていたのよ』という母の言葉を聞いた途端、私は頭の中が真っ白になりました」

 「『なぜ? お母さん、なぜ私がガンになると思ったの? 私たち一家にガンになる遺伝子があったからなの? それなら、アンナも早く検査に行かないとね』、と私は驚いて母に言いました。すると母は、『我が家の遺伝子が原因なのではなく、つまり、マーサ、ガンはあなた自身が招いた病気なんだと私は思うの』と答えました」

 「私は怒りを覚えながら母をしばらく見つめていました。私が幼いころからこの人は本当の意味の母親だったのでなく、ただ子供の養育をしていた家政婦にすぎなかったのだ、とその時、私は心の中で思いました」

 「母は、『マーサ、あなたは他人に対して自分の様に要求が高すぎ、人を思いやる心が足りなかった。あなたの要求は時には恐ろしく厳しくて、だからあなたの心はいつも苦しくなっていたのだと思う』と言いました」

 「『どうしてそんなこと言うの? 私が二十一歳の時に大学院に行ったけど、お母さんは簡単な数学も出来やしないじゃない。結婚を博士課程終了後にしたのも、我が子に対して責任を持ちたくなかったからなのよ』と、私は見下した目で母を見ました」

 「その視線に母も気づいたようでした。しかし、母は、今までのように見慣れた卑屈さは微塵も無く、無限の慈愛と優しさに溢れた目で私を見つめ、『マーサ、私はあなたのような立派な母親にはなれなかったけれど、ずっとあなたを誇りに思っていたの。私はあなたから何かを学び、あなたが自分の子供達に冷静に対処しているのを見て、本当に羨ましく思っていたわ。私自身はあまり高い教育を受けていないけど、あなたに良い教育を受けさせるためにずっと努力してきたつもりです。新しいところに引っ越すたびに、あなたのために良い学校を探しもしたわ。ある学校に良い教師がいると聞けばそのために引っ越した事もあったわね。美容院やクリーニング屋に行くために一時間以上車を運転しても私は一度も苦に思ったことはなかったわ。あなたのために、いつも学校が一番近いところに住まいを決めていたのですから……』と話しました」

 「私はそれを聞いてとても驚き、一瞬ポカンとしました。『それは本当?お母さん、一週間ごとに学校を変えたのも私のためだったの? 頻繁に転校する子が試験の時にどれほど辛い思いをするか、ちゃんとした教育を受けなかったお母さんには理解できなかったの。子供にとって、良い学校や教師を得るより良い友だちを作る事のほうがずっと大切なことだったのよ!』と言って、私は抑えきれずにその場に泣き崩れました」

 「母も顔を覆って一緒に泣きました。そうしたら突然、先生が私に言ってくれた言葉の意味が分かったのです。先生は『他人には寛容で、思いやりの心を持つこと』と言って下さいましたね」

 「今の私は三十年前の母に比べるとずっと教養があり、多くの知識と生活の知恵があります。でも、母は私よりもずっと子供を愛する優しい心を持っていたのです。子供の将来のために自分を犠牲にしてきた人、母こそが無我で無私な人だったのです。私はずっと自分の利益になることばかりを考えながら生活してきました。表面上はすべてがうまく運んでいるように見えましたが、心の中は崩壊寸前まで来ていました。今まで母を許さなかったことも、きっと私自身の心の持ち方に問題があったのでしょう……」

 心の寛容を持てずに、高い知識と教養を持たない母を数十年も恨んで、とうとうガンにまでなってしまったことを、今、マーサはとても悔やんでいます。

 「先生、他人を許すことがどうして大切であるのかが本当に分かりました。他人に対する寛容な心は結局、自分に対する優しさにもなるのですね。この簡単な理を私は今やっと理解できました。これから私は苦痛を伴う長い道のりを歩みながら、自分の心の過ちを正して行こうと思います。どこまで歩んでいけるかは、神様の御心しだいですが……」

 数日後、マーサは母親の家の玄関に花束とカードを置きました。添えられたカードには「お母さんへ、どうしたら良い母親になれるかを教えてくれて、ありがとう。愛するマーサより」と書かれていました 
 

(翻訳編集・陳櫻華)