英陸軍の退役軍人であるトム・ムーアさんが2日、逝去された。100歳。
▼多くのメディアが伝えているように、ムーアさんはロックダウン(都市封鎖)のさなかであった昨年4月16日、自ら立てた「自宅の庭を100回往復する」という誓いを達成。歩行補助具を使いながら、一歩ずつ、前へ歩む。自身の誕生日である4月30日の前に成した「快挙」であった。
▼ムーアさんが呼びかけた医療募金へ集まった寄付金は、最終的に40億円を超える額になったという。欧州で、コロナ関連死の最も多い国である英国で、国民の心が一つになったことが、その驚異的な金額からも想像できる。誰がやってもできることではないはずだ。やはりムーアさんの経歴と魅力あるお人柄によるのだろう。
▼お見事な大往生を遂げたムーア翁に学ぶべきことは何かと、ふと考えた。とっくに人生の後半に入った筆者などは、単純に「長生きしよう」と思った。老いるのは自然であるし、死ぬ時期も自分では決められないが、年齢相応の健康は維持していきたい。周囲を微笑ませるユーモアもほしい。さらに100歳でも自分で歩けるなら、なんとすばらしいことだろう。
▼生まれたばかりの赤ちゃんは、そこに眠っているだけで周囲の人々を幸せにする。自分の人生が終わるとき、今一度、そうした無為の姿に回帰できるならば、人の役に立ちたいという我欲さえも超えて、天高く昇華できるのではないか。
▼サー・トム・ムーアと同じことができるわけもない。ただ、コロナに負けなかった老兵の最後の戦いぶりに、爽快な青空を見せていただいた。
【紀元曙光】2021年2月4日
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