命を救う紙

水をろ過して殺菌する本

世界の多くの国で今、安全飲み水の確保が重要な課題となっている。ユニセフの水と衛生部門サンジャイ・ウィジェセケラ部長の話によると、現在、安全な飲料水を確保できない人は世界で7億5千万人にのぼっているという。また、安全な飲料水の不足が原因で、年間300万人以上の人が亡くなっているとの報道もある。

深刻なこの問題を解決するため、アメリカの科学者テレーザさん(カーネギーメロン大学所属)が立ち上がった。8年をかけて1000回以上の実験を重ねた彼女は、銀と銅のナノ粒子を含んだ殺菌作用を持つ紙を作り出した。この紙で水をろ過すると、殆どの病原菌が除去される。つまり、汚水から飲み水を生成することができるのだ。南アフリカ、ケニア、ハイチ、ガーナ、バングラデシュ、インドなどの25以上の地域で試用したところ、いずれも99%以上の除菌率に達するという結果も得られた。

テレーザさんは食用の無害インクを用い、衛生に関する情報を英語と現地の言語でこの紙に印字した。そして本の形に仕上げ、『飲める本(Drinkable Book)』と名付けた。ケース付きのこの「飲める本」は、ページを1枚ずつ切り取ってケースの底にセットすると、汚水ろ過装置として使える仕掛けとなっている。1枚の紙で平均100リットルの水をろ過する性能があり、26枚綴りの一冊をまるごと使用すると、一人あたりに必要な飲み水の約4年分が確保できる計算だ。

セラミックによるろ過や紫外線殺菌など飲み水を作る方法は他にも沢山あるが、それらの方法に比べ、この紙は1枚数十円で格段にコストが低い。使用にあたってライフスタイルを大きく変化させる必要もないため、普及しやすいのも大きな魅力である。発展途上国での利用は勿論のこと、アウトドアや災害時など幅広い活用が期待されている。

(翻訳編集・金谷)