チベットの光 (70) 叔母の慈悲

【大紀元日本10月18日】このとき、プダは崖の外にいたが、遠くから叔母がやってくるのを見ると、急いで洞窟に戻り、叫んだ。「お兄ちゃん!お兄ちゃん!叔母さんがやってくるわよ。あいつには、わたしたち酷い目にあったんだから、もう会うことはないわよ」。彼女はそう言うと、崖に掛かっている吊り橋を引き上げてしまった。

 「姪っ子や、どうか吊り橋を引き上げないでおくれ、叔母さんが会いに来たのだから」。叔母はプダが吊り橋を引き上げているのを見て叫んだ。

 「あんたが来たから、引き上げてるんでしょ!」プダが答えた。

 「姪っ子や!どうかそんなことはしないでちょうだい。以前やった間違ったことは、今は後悔しているのよ。だからこうして駆けつけてお詫びに来て、あなたたち兄妹に会いにきたのよ。あなたが私と顔を合わせたくないのなら、どうかお兄さんに私が来たことだけでも一言伝えて頂戴」、叔母は言った。

 このときミラレパも出てきた。叔母は彼に対して礼拝をし、再三にわたって求めた。「甥っ子や、私が以前にやった悪いことは、今は後悔しています。だから、あなたに会わせてください」

 ミラレパは、彼女が苦しみの中から懇願しているのを見て思った。「私は仏を修める者だ。道理からいって、彼女には会うべきだ。しかしそう答える前に、彼女に懺悔の機会を与えなくてはいけない」。そして彼は言った。

 「私は早くから親戚一同とは関係を断っている。とくに叔父さんと叔母さんとはね。小さい頃、あんたたちは、わたしたちの家に酷いことをした。私が托鉢して修行していた頃にも、わたしを放ってはおかずに、多くの苦しみを与えてくれましたね。もうあんたたちとは関係がありませんよ」

 叔母は後悔の念しきりで、あたりかまわず大声で泣き出し、何度も何度もミラレパを礼拝しながら言った。「甥っ子や!あなたの話は間違っていません。私は本当に後悔至極です。わたしは今、誠心誠意、あなた方にお詫びに来たので、どうか私を赦してください。私の心は大変に辛く、親類を捨てることなどできません。だからどうかあなたたちに会わせてくださいな。でなければ、私はあなたたちの前で自殺しますからね」

 ミラレパはこれを聞いて耐えられなくなり、吊り橋を下ろそうとした。「お兄さん!駄目よ!」プダが彼の耳元で囁いた。「お兄さん、騙されないで。彼女が自殺するなんて、私には到底信じられないわ。あれは演技よ。彼女がどんな悪いことを企んでいるんだか、何を演技しているんだか、知れたもんじゃないわ。吊り橋を下ろしたら、狼を部屋に入れるようなものよ。彼女は悪いんだから、もう騙されないで、会うこともないわ」。プダは会うべきではない理由を並べ立てた。

 「どんなことがあろうとも、私は修行者だから、彼女には会わなくてはならない」。ミラレパはそう答え、吊り橋を下ろした。叔母がやってくると、彼は法を説き、因果関係など仏法の理論を伝えた。叔母は聞き終えると、その心に徹底した改変が起き、仏法に帰依した。それから彼女も修行を開始し、後にとても良い修行者となって、最終的には解脱にまで到達した。

(続き)
 

(翻訳編集・武蔵)