中国崑崙山の仙人(16) 蠱惑

【大紀元日本2月27日】

前書


本文は、私が知り合った先天道を修めた平先生(500歳)の経歴を記録したもので、文章はすべて記憶によるものである。何人かの人の記憶を統合したもの、または私と平先生の間であった途切れ途切れのいくつかの対話を元に書いたものであるため、文の繋がりがよくないと感じるところもあると思われる。私はそれらを一つに統合し、論理的な文脈を整えるため、想像を使った文字を加える場合があったが、事実を離れた記述はない。平先生との経験から、私は世の中の多くの出来事は人が思っているものとはまったく違うということが分かった。本文を読んだ後、多くの人は考え方が変わると思う。

************************************************


九、蠱惑

私たち三人は夜半に出発し、南下した。神医はとても明朗で話し好きで、私たちは雑談しながら歩いた。上り下りのあるでこぼこの山道は意外にも歩くのが楽だった。神医は90歳あまりにもなるように見えたが、体はとても元気で、足並みは若者よりも力強かった。

道中、神医は駆虫法についておしゃべりした。それは回虫の治療方法を指しているのかと私が聞くと、神医は大きく笑いながら、回虫などの寄生虫ではない、とても恐ろしい虫の一種だと答えた。平先生が今回、取り除きに行くこの「蜮」も、実はこのような一種の虫だという。神医は、駆虫法は既に伝承が途絶えており、おそらく自分は駆虫法を知っている最後の医者かもしれないと嘆いた。この種の虫は、病院に行って検査しても見つけることはできず、例え人の腹を切り開いて、中をひっくり返したとしても、出てこないのだという。必ずある特殊な治療法を使って、その原形を現出して初めて取り除くことができるという。

神医は40数年前、行脚しながら医者をした時に、※蠱(こ)を退治したことがあるという。当時はまだあちこちで戦争が起きて、土匪も多かった時代だった。湘西の近辺に、ある一人の商売人がおり、墓の盗掘も兼営していた。ある日、彼が墓を盗掘した時、地下から固く封じられた一つの缶を掘り出した。彼は宝物を見つけたと思い、それをこじ開けると、缶の中は空っぽだったが、一つの黒影がそこから出てくるのが見え、何かが彼の鼻孔から体に入ったと感じた。その時から彼は怪しい病気になった。発病する時は、あちこち転げ回って、五臓六腑が百個の爪に掻かれるようで、五臓が裂けるように感じ、死にたくても死ねない、極限の苦痛であった。病院に行っても、問題はないというばかりで、検査しても何もでなかった。その時、偶然に神医と出会ったが、神医が天目で見ると、一匹の大きな虫がその人の腹の内で揺れ動いているのが見えた。神医が詳細を聞くと、案の定、問題があったのだ。神医は薬を調剤して彼に飲ませた。2時間後、彼は1つの血の塊を吐き出したが、棒で押しのけて見ると、中にはぐるぐる巻いた一匹の大きいムカデがいた。長さはまるまる1尺(約30cm)もあって、色は赤色だった。神医は、これは珍しいものだと思い、即それを掴み、薬材用に残した。

神医は言いながら、薬が入っている袋を開き、中から赤色のムカデの干物を探り出した。それは本当に1尺あまりもあった。私はビックリして、開いた口が塞がらなかった。あまりにも怖かった。彼は、これは本当に天意だと言った。なぜなら、今回「蜮」を退治するには、正にこのムカデの干物が必要で、これがないと退治できないというのだ。

話し終わると、神医は平先生がずっと黙っているのを見て、師父から「蠱は三年、惑(わく)は百年」という言葉を聞いたことがあるが、自分は蠱しか見たことがなく、惑は目にしたことがないが、平先生は見聞が広いので、きっと惑についても知っているはずだと言った。

また目新しいものが聞けると思うと、私は興奮して、平先生に教えてくださいとまとわりついた。

平先生は私にせかされて、仕方なく話してくれた。彼は数十年前に一匹の惑を退治したことがあった。彼の話によると、蠱は湘西人に寄生するのが多数であるが、惑は広西の辺りで寄生することが多いという。蠱が成長するのは三年で十分で、容易であるが、惑は少なくとも百年前後が必要で、一般的に3世代の人にかけて、一匹の惑が寄生するという。そうでなければ、この種は途中で死ぬこともよくあり、めったにないものだと言った。また蠱は、虫類に属しているが、惑は獣類で、凶霊に属しているので、彼の管轄の範囲内にあるのだといった。

続いて、平先生は数十年前、惑を退治する経過を話してくれた。広西のある山城鎮で、連続して人が殺される事件が起きた。死んだ人は、死ぬ前に何の徴候もなく、死ぬ時も血が流れることなどもなく、突然倒れて死んでいくが、その時は、とても怖くて、苦しんでいる表情で、両目は大きく開いたままだった。上層部が人を派遣して調べさせたが、その数十人も、その鎮に来てわずか数日で、みんな同じ時刻に死んでしまったという。平先生は一目で、凶霊がやったことだとわかったという。ただ何の種類の凶霊なのかは確定できなかったため、そこの人たちにあれこれ聞いた。彼らの話によると、山の頂上に一人の土匪の王がおり、配下に強盗が多いわけでもないのに、誰も彼と敢えて敵対しないという。彼らはよく山上から下り、正々堂々と町の中で財物を奪い取っている。彼と敵対したり、彼を怒らせたりした人は、いつも不思議と死んでしまうのだという。この町で、このように死んだ人は、みんな彼と何かしらのトラブルがあった人であるというのだ。

彼らの話を聞いて、平先生はだいたい予想がついた。その夜、彼はあの土匪の王と会うために、山頂に行った。彼と会った時、彼が単なる一人の凡人であることに気付いた平先生は、彼を傷つけることができなかったため、これから悪事をやめて、善行を行いなさいと勧めた。

ところが、彼はすぐに煩わしくなり、惑を放って、平先生を殺そうとした。平先生が2匹の龍を放つと、龍と惑は戦い始めた。惑は龍を恐れ、勝てないと分かったら、すぐに逃げ出した。龍は林を回りながらそれを追いかけた。惑はスピードが極めて速く、龍は山を一時間あまり回ってようやくそれを捉えてきた。平先生はその惑を殺し、それの心臓を取り出した。

ここまで聞くと、神医はすぐ、彼の師父の話によると、惑の心臓は世界でもっとも有毒な迷魂薬で、百穴を閉じることができ、万物の心を迷わせることができると言った。平先生は、うなずきながら、今考えると、天は本当に全てを按配していたのだと言った。今回、黒魚妖怪を取り除くのに、この惑の心臓がないといけないのだという。この惑の心臓で、黒魚妖怪を取り除くのに使われる「蜮」を従わせて、平先生の命令に従うようにするのだ。

これらの事を聞いて、私は不思議に思い、呆然とした。道中の疲れも全て忘れた。神医は一種の神奇な薬を持っていて、お腹が空く時に一つ飲むと、一日何も食べなくても、お腹がいっぱいになる。神医は、この薬は、お腹が空いた時に効くが、多く飲んではいけないと言った。多く飲むと痩せてくるので、特に、私みたいに痩せている人は、遠慮したほうが良いと言った。やはり、ご飯をいっぱい食べるのが一番だといった。

いつの間にか、私たちは既に二日間歩いた。三日目の時に、私たちは湖南省についた。位置は大体、張家界あたりだったことを覚えている。

※蠱:伝説の中の一種の毒虫、人を害するのに使われるという。

(翻訳編集・柳小明)