夕方、一人の僧侶が僧院に戻る途中、雷が大きく鳴り響き、激しい雨が降り出した。雨は降り続いていて、しばらくは止みそうにない。幸いなことに、すぐ近くに荘園があったので、僧侶はそこで一晩、嵐を避けようとした。
門番の召使は、僧侶が門を叩いているのを見て、「ご主人様は僧侶とは縁がないので、他をあたったほうがよい」と冷たく言い放った。僧侶は「雨が激しくて、近くに他に泊まる店などもないので、何とかお願いできませんか」と懇願した。
使用人は、「許可がないとできないので、中に入ってご主人様にお聞きしてみます」と言った。奉公人は中に入って許可を求めたが、僧侶のもとに戻ってきて、再びだめだと言った。屋根の下でも良いから一晩、雨宿りさせて下さいと頼んでも断られ、僧侶は仕方なく使用人に荘園の持ち主の名前を聞き、土砂降りの雨の中、びしょ濡れになって寺に走って帰った。
それから3年後、この荘園の主人は妾を娶って、溺愛していたが、妾がお寺でお香を焚いて加護を祈りたいというので、主人は妾に付き添って出かけた。寺院に到着すると、長寿のための目立つ位牌に自分の名前が書かれているのを見た。戸惑った主人は、ちょうど庭掃除をしている若い和尚に訳を尋ねてみた。
するとその和尚は笑って、「これは3年前に住職が書いたものですが、ある日、土砂降りの雨の中を帰ってきて、善い縁のない恩人がいるから、その人のために位牌を書いてあげました。住職は毎日お経を唱え、その功徳を彼に返し、彼の不平不満が解消され、良縁を結び悪縁は切る事ができるよう期待していました」
この言葉を聞いた老人はすぐに理解し、恥ずかしさと不安を感じた。…… その後、彼はこの寺の熱心な後援者となり、一年中お香が絶える事が無かったという。
(翻訳・金水)
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