古代中国の物語

善良な医師

1960年代、中国の淮北(安徽・江蘇)地区に、医術に優れた高尚な医師・賈氏がいた。彼は患者に因果応報の理を話し、良い人間になるよう説いていた。そのため、彼は「賈善人」と呼ばれるようになった。彼は貧しい患者からは診察料を受け取らず、困っている人にお金を与えた。

ある日、賈善人は村で八十過ぎの老婆が倒れたと聞き、急いで駆けつけた。 老婆の家が非常に貧しいのを見て取ると、彼は往診費用を取らず、老婆の靴の中に密かに60元を入れて帰った。

その後、帰宅した老婆の息子・黄剛氏は姉が老婆の枕下に隠していた20元が無くなっている事に気づき、さっきまでここにいた賈善人が盗んだに違いないと思った。彼が賈善人の家に押しかけて問い詰めると、賈善人は素直に盗んだことを認め、20元を黄氏に渡した。黄氏はそれだけでは気が済まず、賈善人の足を三回強く蹴った。しかし、彼が家に戻ってみると、無くなった20元は姉が持っていた。彼は慌てふためき、急いで賈善人のところへ舞い戻った。

黄氏は申し訳なさそうに言った。「先生、あなたはお金を盗んでもいないのに、なぜ盗んだといったのでしょうか?」

賈善人は答えた。「あなたのお母さんは、精神的な安静が必要です。お金が無くなったことを知ったら、彼女は動揺し、病状が悪化するでしょう。お母さんの健康のために、私はその場で盗みを認めるしかなかったのです。もちろん、真相はそのうち話すつもりでした。ですが、自分が屈辱に少し耐えるだけで、人の命を守ることができるなら、それに値すると思うのです」

この話を聞いた黄氏は自分の浅はかな言動を恥じ、頭を垂れた。

ある日、母親の病気治療をしてもらうために川を渡って来た少女が、賈善人を自宅に案内しようと渡し船に乗った。しかし、船はすでに満員で、船頭は賈善人に降りるよう促した。

少女は、具合の悪い母親のところへすぐに行かなければならないと涙を流し、自分と賈善人を乗船させて欲しいと船頭に懇願した。少女に同情した他の乗客も船頭に頼んだが、船頭は断固として二人を船に乗せなかった。賈善人は諦め、「では、次の船を待ちましょう」と言った。すると船頭は、「夜になっても、あなたを乗船させませんよ」と強い口調で言った。乗客は船頭に理由を尋ねたが、彼は答えなかった。

渡し船が川の真ん中辺りに進むと、急に竜巻が船に襲いかかった。船に乗っていた乗客は全員、川に落とされてしまった。

必死に泳いでどうにか岸にたどり着いた船頭は賈善人に言った。「実は昨晩、三つの夢を見ました。最初は寝付いたときに、城隍神(じょうこうしん)から、明日、賈医師を渡し船に乗せないようにというお告げがありました。そして、夜中に川の神から、明日、賈医師に川を渡らさせないようにとお告げがありました。そして、朝方に観音菩薩から、賈善人に川を渡らさせないように、川を渡ることは賈善人にとって危険であるから、と告げられました。私があなたを乗船させなかったのは、これが理由です。何故これらのお告げがあったのか、今になって分かりました。善には善の報いがあり、悪には悪の報いがあるということですね」

(翻訳編集・潤)