【大紀元日本8月16日】清朝の時代、張という名の商人が長江を渡り、江宁府(現在の南京)へ借金の回収にやってきた。年が明ける前に家に戻ろうと思った彼は、行李を背負い、明け方には町の方へ出発した。彼が賑やかな市場に着いたのは朝早く、城門はまだ閉まっていた。
しばらく城門の前で待っていた張は疲れを感じ、金銀が詰まった布袋の上に座って少し眠ることにした。城門が開くと、彼は跳ね起きて行李を抱え、門の中へ駆け込んだ。門から一里も離れた頃、はっと気づくと、彼は布袋を持っていない。彼は踵を返して城門へ駆け戻ったが、市場はすでに人々でごった返し、布袋は消えていた。
張は眉をひそめながら注意深く辺りを探し、誰かが彼の布袋を返してくれることを願った。すると、どこからか老人が現れ、どうしたのかと尋ねてきた。張が説明すると、老人は張を彼の家に招きいれて言った。「わしは今朝、扉を開いたときにこの布袋を見つけた。お前さんが探しているのはこれかね?」張は言った。「袋の中には2つの封筒があり、それぞれ銀塊がはいっています。大きいほうは私の雇い主のものであり、小さいほうは私のものです」。老人が布袋を確かめると、確かに張の言うとおりだった。老人はその袋を張に返した。
張は涙が出るほど感激し、老人に自分の銀塊を分けましょうと言った。すると、老人は微笑みながら言った。「もし私がそれほど金を愛しているなら、あなたに布袋のことなど言わないでしょう。お分かりかな?」張は老人の名前を尋ねると、恭しくその場を立ち去った。
この日、張が家路につくために長江のほとりで船を待っていると、強い突風が吹き始めた。たくさんの船が転覆し、乗船していた人々が海に投げ出された。突然の惨事を目にした張は、ふと思った。「今日、俺は失くしたと思っていた銀塊を取り戻した。それを失くしていたなら、きっと俺は自殺してしまっただろう。まさに今日、俺は生き返ったのだ」。張はとっさに自分の有り金をはたいて人を雇い、溺れている人々を助けた。数十人の人々の命が助かった。
救助された人々は、張のところへお礼にやってきた。すると、偶然にも、そのうちの一人は張に布袋を返したあの老人の息子だった。張はその出来事に驚き、その場にいた人々に、南京であった出来事を話した。その後、老人の一族と張の一族は親しくなり、両家は婚姻関係を結んで親戚となった。
老人は拾った財産を持ち主に返し、何の見返りも求めなかった。それは張の危機を救っただけでなく、彼の心に善の種を植え付け、後に自分の息子が救助される機縁に繋がったのである。
古人曰く、「見返りを求めずに善行を行えば、他人に善の心を植え付け、自分の苦難も自ずと解かれる。他人が善行を行えるよう助ければ、他人からの救済を得ることができる」。ほんの少しでもいいから、人のために尽くす。それは、思いもよらぬ形となって返ってくるだろう。
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