【エンタ・ノベル】麻雀の達人(4)-九蓮宝燈-

【大紀元日本6月24日】満福が振り返ると、セカンドバッグの男は名刺を差し出した。「黒竜会金融CEO、張国強…(中華街でも悪名高い街金だな)」。「その張社長が、私に何の用ですかな?」男は、サングラスをはずすと、涼しげな眼差しで、「あんた、20年前に投身自殺した王回竜は知っているな。奴は、俺と同郷の黒龍江の出身でねぇ…日本に出てくるとき、義兄弟の契りを交わした。俺も最近は羽振りが良くなってね。どうもこの商売が性に合っているようなんだ」。

男は、廟をちらりと仰ぎ見てから、「ふぅ」と一つ嘆息して気合を込めて言った。「ピン一万(円)、半荘の勝負だ」。満福はしばし考えた。「(どうも自信満々だが、もうこれ以上は劫は積みたくないし…かといって断れる状況でもなさそうだ)」。満福が逡巡していると、「あんたも中国人の血が流れているのなら、仁義は知っているな。義兄弟の弔いは、怨恨が晴れない限り永遠になくならないからな」と男は凄む。男は、日時と場所を告げると、早々と中華街の雑踏の中に消えていった。

それにしても何故今頃になってと満福は思う。しかし、周囲の状況を見て、簡単に事情は分かった。要するに東京都心の繁華街と中華街を直通させる電車が新しく敷かれるため、その周辺の再開発がプロジェクトになり、大きな利権が絡む仕事が中華街に転がり込んできたためであった。「なるほど。甘い樹液に蛾が集るの道理だな。仁義だなどと言っていたが、結局は金だ。逆に引導を渡してやる」。果たして満福は、再度大勝負に望むことになった。「ハコテンで2億7千万円、へたしたら3億…たいしたことはない。不敗の私に負けはない。どうせ汚い手段で儲けた金だ。逆に地獄に突き落としてやろう」。

満福が約束の場所に現れると、深夜営業の終了した中華料理屋の二階には既に三人がしんみりと卓に着いていた。街金の張が、待ちかねたように後の二人を紹介する。「こちらが、新宿に本社のある金鳳漢方の仙社長。こちらが、池袋で不動産業を営む国龍不動産の呂社長だ」「そして、こちらが伝説の不敗の雀士、金満福さんだ。皆さん、今晩はお互いによろしくお願いします」。「(金鳳漢方…不法薬物取締法違反で摘発された業者じゃなかったか…国龍不動産は、東京の地上げ屋だな…やはり悪党は悪党なりの首魁だけあって、みなりもみのこなしも一様に上品だな)」。満福はさっそくに相手をさりげなく値踏みした。

実際に卓を囲んでみて、満福は少しばかり警戒した。牌をかき混ぜたときに、相手の生来のもって生まれてきた運気の強さを指先から感じたからだ。やはり、違法ながらもビジネスに成功する輩は、よくも悪くも運気が強くないと生き残れないようだ。勝負は、運気が拮抗して互いに大きな手が回ってこず、東場での満福の満貫あがりが効いて、結局満福の一万点プラスで半荘の南場最終局を迎えた。ここで、親になった東家の満福は、海底と自らの手の内に得意の牌を積み込んで仕込んだ。

配牌の段階で、満福の手の内にマンズがずらりと並ぶ。「(こんなやくざな連中とは半荘だけで十分だ。さっそくに決着をつけてやるぞ)」。満福の捨て牌を見て、下家の金鳳の社長がつぶやく、「清一か…一通か…いずれにしても大きな手のようですな…」。一同は、闇聴牌のあたりを警戒しはじめ、マンズを切らなくなったが、それでも満福は平然として確認に満ちた様子でツモ切りを繰り返している。

親の満福が海底をツモッた。「ハイテイ、ツモ!九蓮宝燈…純正ドラドラ…ううう…」ここまで言うと、満福は急に胸が苦しくなり、その手が深夜のしじまの虚空を泳いだ。その手は、まさに20年前に満福が黒龍楼の店主を自殺に追い込んだ時と同じ手「九蓮宝燈」の再現であった。満福は、一生に一度あがれるか否かといわれる「九蓮宝燈」を積み込みで二度成功して大勝負に勝ったが、今回ばかりは劫が極まったのか、急性心不全を起こして意識が昏倒し、市内の病院に搬送されることとなった。

(続く)