昔、性格の悪い風水師がいた。彼の占いはよくあたったが、あまり人に対して親切にすることはなかった。彼は古文書に書かれている伝説の龍脈(*)を見つけるため、長い間旅を続けていた。
カンカンに照りつける太陽の下で、崖を上り、岡を越えて歩きつづけた風水師は、喉の渇きを覚えた。彼は人里離れた山奥に、こぢんまりとした一軒家を見つけると、急いで駆けつけて扉を叩いた。
家の中から一人の老婆が顔を覗かせると、風水師は汗を拭きながらすかさず言った。「おばあさん、水を一杯くれませんか?」老婆は、風水師の真っ赤な顔と、暑さで首の静脈が浮き上がっているのを見ると、「お待ちなさい」と静かに言い残し、ゆっくりとした足取りで家の中に引き返した。
半日も過ぎたころだろうか、待ちくたびれた風水師の忍耐力も限界に達しようとする頃、老婆が水を手にして戻ってきた。彼は水を老婆からひったくり、ガブ飲みしようとしたところ、お米の籾殻がたくさん水の表面に浮いているのが見えた。彼は怒りが爆発しそうになったが、あまりにも喉が渇いていたので、しぶしぶその籾殻を息で吹き飛ばしながら、少しづつ水を飲んだ。そして、風水師は思った。「この老婆は、本当に意地悪だ。さんざん待たせたあげく、やっと出て来たと思ったら、籾殻の浮いた水を差し出す。どうやってこらしめてやろうか…..」。
風水師は、「ありがとうございました。お礼に、お墓を立てるのに最適な場所を探してあげましょう。私は、実は経験を積んだ風水師なのです。」と言って、老婆を岡の方へ誘った。
風水師はコンパスを取り出すと、じっくりと場所の長さを測り、方角を観察して風水的に最高の場所を占った。「おばあさん、ここにお墓を立てると幸運を呼びますよ」と言って、風水師がある場所を指差すと、老婆は「いいね」と答え、「お前さん、台風が近づいているから、早く出発した方がいいよ」と告げた。
10年後、風水師が同じ場所を通りかかると、ふと老婆にお墓の場所を示してあげたことを思い出した。彼が指し示したのは、実は風水的にとても不吉な場所だった。もし老婆がその場所に埋葬されていれば、彼女の家族は破滅の運命を辿るはずだった。果たして、彼は老婆の墓がその場所に建てられているのを見つけた。
風水師がふと岡のふもとに目を向けると、荒れた土地は整備され、にぎやかな町ができているのに気がついた。彼はふもとに降りると、一番裕福そうな家をノックし、家の者に老婆のことを尋ねた。すると中から出て来た若者は、「貴方があの風水師ですか?祖母は、亡くなる前に貴方のことを話していましたよ。貴方が教えてくれた場所にお墓を立てて欲しいと言い張っていました。なぜなら、貴方は祖母のために特別に、一生懸命よい場所を選んでくれたのだから、と言っていましたよ」と言った。
若者は、一杯の水を持ってきて話し続けた。「ゆっくり飲んで下さいね。祖母がよく言っていましたが、長時間炎天下を歩きつづけた後に水をガブ飲みしたら、身体を壊すそうです。祖母は、旅人が訪ねてきて水を頼むと、必ず籾殻を水に浮かべて出していました。そうすれば、ガブ飲みできないので、旅人が身体を壊すこともないからです」
それを聞いた風水師は、心臓が止まるかと思うほど驚いた。しかし、自分がした事を後悔しても既に遅かった。
しかし、奇妙なことに、この老婆の子孫はとても裕福で元気であることに風水師は気がついた。「俺が占った場所は、間違っていたのか?そんなはずはあるまい」
風水師は若者に連れられて、もう一度老婆の墓を訪れた。彼はまたコンパスを取り出し、慎重に土地を測った。ここが、彼が探し求めている龍脈なのだろうか?彼が何度も計測している間に、若者は10年前に起ったことを話し出した。「先生がこの土地を去った後、ここはすぐに台風に見舞われました。その時、三日三晩、土砂降りの雨が降りつづけ、洪水がこの荒れた土地を全て洗い流しました。台風が去った後、私たち家族はまた一から家を建て直して生活しなければなりませんでしたが、御覧なさい。荒れていた土地は、整備されて賑やかになり、私たちは町一番の裕福な一族となりました。それもこれも、先生が祖母に幸運の場所を教えてくれたからでしょう。祖母は亡くなる前、必ず先生が教えてくれた場所に埋葬するようにと、言っていました。そうすれば、家族は繁栄するからだと……」
10年前風水師が占った時は、この場所は明らかに不吉な場所だった。しかし、台風と洪水がここの地形を完全に変えてしまい、そこが伝説の龍脈になっていたのである。
「恵まれた者は恵まれた土地に住む」という。自分が行ったことは、必ず自分に返ってくるのである。
(*) 龍脈:大地に流れる「気」の流れのこと。風水思想では、山々は、その流れる気の力により隆起したものと考えられており、大きく、そして峰がたくさん連なった山ほど、龍が元気に躍動しているように見え、その分「龍脈」の力が強く現れると考えられている。この龍脈はあちこちに枝分かれしており、その行き止まりに「龍穴」を結ぶことがある。この龍穴場所にお墓を造ると、子孫繁栄や富貴、福寿などを享受できると言われている。
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