【紀元曙光】2020年9月9日

台風10号が各地にもたらした被害の実態が明らかになりつつある。
▼とりわけ九州地方の被害が大きい。宮崎県椎葉(しいば)村の土砂崩れ現場では、4人が行方不明になっており、現在も懸命の捜索が続けられている。
▼4人のうちの2人は、ベトナムから来た技能実習生だという。他の2人は雇用主の妻と息子さんとのこと。「技能実習生」という名目だが、実質的には「働き手」と「出稼ぎ」という双方の希望が一致したところに生まれた、一種の雇用形態なのであろう。
▼そんなことは、今はいい。私たちが想起したいのは、ベトナムで突然の悲報を知らされた2人のご家族のご心痛である。2人ともまだ20代というから、ご両親がいるであろう。まだ死亡が確定したわけではないが、ご両親の気も狂わんばかりの心情は、察するに余りある。
▼日本人の側がどう思おうと、それぞれの目的で日本に長期滞在する外国人は、以前に比べて飛躍的に増えた。ごく一部に好ましくない者がいたとしても、大部分の外国人は、日本社会で勤労と納税という二つの義務を果たす、我々と同じ人である。「ゴミの分別」などの生活上の知識は、日本人のほうから教えてあげればよい。
▼9月9日は重陽(ちょうよう)の節句。今では忘れ去られた行事だが、江戸時代くらいまでは日本にもあった。中国の重陽節は、親族みんなで明るい丘に登り、菊の花を浮かべた酒杯を掲げて、ごちそうを楽しむ。そうしながら、遠く離れた身内を思うことも、この節句の常だという。土砂に流された2人が、祖国の母君の胸へ帰れるよう、小欄も切に祈る。