ウル遺跡から発掘された粘土板から明らかになった4000年前のクレーム事件

英ロンドンにある大英博物館。そこに展示されている古バビロニア時代の粘土板が、世界最古のクレームであったことが判明しました。紀元前1750年頃に書かれた粘土板のくさび形文字を解読したところ、質の悪い銅を売りつけられ返金に応じてもらえず、使者を送ったが門前払いを受けたことに激怒したバビロニアの銅商人・ナンニが、取引相手のエア・ナシル宛に出した苦情の手紙だったことがわかったのです。

アッシリア学者のA・レオ・オッペンハイム氏の著書『Letters from Mesopotamia: Official, Business and Private Letters on Clay Tablets from Two Millenni(原題)』に収録されたこの粘土板の現代語訳から、ナンニの怒りがはっきり読み取れます。

エア・ナシルに伝えてくれ。
この前、君はこう言った。「ジミル・シンに良質な銅を渡す」と。だが君は約束を守らなかった。私の使者に粗悪な銅を渡して「欲しいなら持っていけ。いらないならそのまま立ち去れ!」と言い放った。

君は私を誰だと思ってるんだ? 私のような客を侮辱するのか? 返金のため、私と同じように紳士的な使者を何回送っても、君は使者を突き返して私を侮辱した。敵地をくぐり抜けて行ったんだぞ。ディルムン(当時の銅の産地)で私にこんな対応をする商人は誰1人いない。私の使者を侮辱したのは君だけだ!

1ミナ(重さの単位、約575g)の銀を借りているからか? 君の無礼な振る舞いにもかかわらず、私は君の代わりに1080ポンド(約490kg)の銅を宮殿に納め、ウミ・アブムも1080ポンドの銅を納めた。私と君とで記載・封印し、サマス寺院に納めた粘土板の内容とは別に、これだけの銅を納めたんだ。どうしてこんな扱いをするんだ?

質の悪い銅は今後一切受け取らないことを覚えといてくれ。今後の取引は全て、私の敷地で個別に銅を選別して行い、質の悪いものには拒否権を行使する。君は私を侮辱したのだから。

3750年前に書かれたこのクレームは、メソポタミア期に栄えたシュメール人の都市・ウル(現在のイラク南部)の遺跡から見つかりました。

メソポタミア文明はとても発達しており、医学など学問が盛んで、ガラス工芸、金属加工の技術も持っていました。銅の産地を中心に、銅の取引も盛んだったと推測されます。

このくさび形文字もメソポタミア文明の象徴です。粘土板は、アシや木の棒からできた筆で柔らかい粘土にくさび形文字を刻み、その後、焼き固めて作られました。くさび形文字は西暦200年頃から使われなくなりましたが、19世紀から解読研究が進められています。
 

大英博物館所蔵のキュロス・シリンダーに書かれたくさび形の抜粋(15〜21行目)。キュロス大王の家系と紀元前539年に成し遂げたバビロン攻略について記されている。

このような粘土板は世界中の博物館に50万近く保管されていると言われていますが、いまだ3万〜10万のみしか解読されていません。

考古学者はくさび形解読を通して、古代文明の信仰や生活様式を明らかにしてきました。敵を妨害する呪いの粘土板や古代の歌を記した粘土板もあり、バビロニア時代のキュロス・シリンダーは古代の人権宣言文だと考えられています。

こうした古代の人造物は、当時の日常とはどういうものだったのかを現代に伝える貴重な資料となっています。

お粗末なサービスにクレームを入れるのは当たり前の現代ですが、それは4000年前も同じでした。いつの時代も最高のサービスを得ることは難しく、また、人間は4000年前からあまり変わっていないというのも、驚きの発見です。

4000年後、未来の人間が私たちのクレームを読んだらどう感じるのでしょう? 第一、今の言語は使われているのでしょうか? この粘土板は、そんな壮大な疑問を抱かせるのです。

(大紀元日本ウェブ編集部)