武漢市中心医院の眼科医、李文亮さんが新型コロナウイルスによる肺炎で2月6日、死亡した。李さんは昨年12月30日の時点で新型ウイルス発生の可能性を知り、大学の同級生グループのチャット上に情報発信して警鐘を鳴らした。
▼武漢の公安当局は「デマを流した」として李さんを派出所へ出頭させ、訓戒書への署名を求めた。その後、李さんは医療現場で患者の対応に当たったが、1月10日から自身にも咳や発熱の症状が現れる。新型肺炎だった。
▼同12日から集中治療室に入る。まだ若く、比較的良質の医療を受けたはずだが回復はならなかった。発症から僅か4週間。善人がこれほど速く死ぬことに理不尽を感じざるを得ない。
▼李さんが署名させられた訓戒書をネット上で見ると、さらに腹立たしくなる。「お前がしたのは違法行為だ」と、あまりに一方的な決めつけがあり、その下に「違法行為を止められるか」「止めなければ法的制裁を加えるぞ。分かったか」の圧迫質問が二つ。李さんは「能」「明白」と最短の答えを書き、赤インクの拇印を押している。日付は1月3日。
▼この1ヵ月後に死去する若い医師を忘れないため、筆者は小欄に書いている。インターネット上や香港、台湾などの各地で、李さんの勇気ある行動を支持し、その死を追悼する動きが広がっている。「英雄」と称賛する声もあるが、それは少し違うかもしれない。
▼李文亮さんは、誠実な医療人として、当然のことをしただけである。多くの患者に喜ばれ、家庭では優しい夫であり父であったに違いない。これが本来の「普通の人」なのだ。