【紀元曙光】2020年2月9日

読者諸氏には恐縮であるが、過ぎてから気がついて、あわてて書いている。昨日、2月8日は元宵節(げんしょうせつ)だった。旧暦1月15日の節句だが、日本の静かな小正月とはだいぶ異なり、中華圏では賑やかにこの日を楽しむ。
▼とは言え、年越しのような爆竹を鳴らす喧騒はない。人々は、飾り物で華やぐ街路をゆるやかに歩き、その雰囲気を五感で楽しんでいる。
▼元宵節の飾り物といえば、中国式のランタン(灯籠)であろう。なかに灯火(今は電球)を入れる明かりなのだが、日本の提灯(ちょうちん)とはやはり違う。どう違うのか説明しにくいが、それ自体にお祭りの楽しさが内在しているからかもしれない。
▼筆者が元宵節を体験したのは、ずいぶん昔で、中国を旅行中のどの場所だったか記憶がはっきりしない。たしか江南の古都、揚州だったかな。良い思い出だが、巳年であったため、干支の蛇ランタンがあちこちにぶらさがっていて、それだけは気味がわるかった。湯圓という、甘味のある餅も食べた。安くて、おいしかった。
▼思い出しながら書いているため、文章が前後するのをお許しいただきたい。それは1989年の元宵節だった。その年の春から、大学生を中心に民主化要求の機運が高まり、それを武力鎮圧した六四天安門事件に至る。湯圓を食べていた時の筆者には、想像もつかなかった。
▼そして2020年。何事もなければ、人々は例年のように元宵節を楽しんでいただろう。ところが今年は、旧正月の前から、とんでもない年になってしまった。しかも惨禍はまだ始まったばかりかもしれない。