百年ほど前に書かれたオー・ヘンリーの短編小説『最後の一葉』は、日本でもよく知られた作品である。
▼ともに暮らす、貧しい絵描きのジョンジーとスー。ジョンジーは重い肺炎で床に就いたまま、生きる希望をなくしていた。窓の外のレンガ塀にあるツタの葉を指さし「あの葉が全部落ちたら、私は死ぬわ」という。
▼それを聞いた、同じアパートの老画家ベアマンが、嵐の夜に、レンガ塀にツタの葉を絵筆で描いた。その落ちない一葉を見て、生きる気力を取り戻すジョンジーだったが、代わりにベアマンが肺炎に罹って死んでしまう。
▼もちろん今の日本でも、特に高齢者にとっての肺炎は油断ならない病気である。しかし、良好な医療環境で適切に処置すれば、対処は可能であると言ってよいだろう。ところが「良好な医療環境」が皆無である場合、その後の結果は、全てが正反対になる。まして病原が新型ウイルスとなれば、現時点で有効な手段はない。
▼中国語大紀元の報道番組「新聞観点」で、李沐陽キャスターが連日深刻化する武漢の状況を伝えている。旧正月まえの1月24日の番組内で李キャスターは、現地の看護師の言葉として、「指揮をとる人がいなくなり、医療現場の系統は崩壊した。政府を信じてはいけない。自分で生き残るしかない」と伝えて、声を涙で詰まらせた。
▼番組の最後に、放送中に感情が高じたことを詫びた李キャスターだったが、それは彼自身が、かつて中国で誠実に記者をした経験に基づく切実な感情からであろう。現地の実態が想像を絶するものであろうことは、筆者にも十分に伝わった。