焦点:ネット偽情報に対抗する「ファクトチェック」に拡散の壁

2019/07/21 更新: 2019/07/21

Alissa de Carbonnel

[ブリュッセル 11日 ロイター] – 欧州連合(EU)は米フェイスブック<FB.O>などのソーシャルメディア(SNS)に対し、「フェイク(偽)ニュース」対策の強化を迫っている。しかし新たな調査によると、ファクトチェック(事実検証)体制を強化しても、誤った情報がもっとも拡散したコミュニティーにはほとんど正しい情報は届かないことが明らかになった。

この調査はビッグデータを扱うアルト・データ・アナリティクスが、5月の欧州議会選挙を前に3カ月かけて分析したもの。ファクトチェックの需要が高まっているにも関わらず、その有効性には疑問符がつくという内容となっている。

ロシアが2016年の米大統領選に影響を与えるツールとして利用したことから、フェイスブックは激しい批判にさらされてきた。これを受け、同社は2018年にファクトチェックの人員を全世界で4倍に増やし、傘下の対話アプリ「ワッツアップ」にもファクトチェックのサービスを導入した。

EUは独自のファクトチェック部門を持つが、オンラインのSNSプラットフォームに対し、対策を強化しなければ規制を課すこともありうると警告した。

ファクトチェッカーは、多くの場合、自分で設立した非営利団体か主要なメディアで働くジャーナリストだ。彼らは根拠のない情報や加工された画像、違う印象を与えるように編集された動画などを反証する記事やブログ、ツイートなどを投稿する。

しかし、フェイクニュースと闘うにあたり、それらの反証がどれだけ効果的なのかという独立調査はほとんどなかった。

アルト・データ・アナリティクスは、EU内5カ国に拠点を置く20以上のファクトチェック団体を調査した。その結果、これらの団体のオンライン上のプレゼンス(存在感)が極めて低く、去年12月から今年3月までのデータでは、ツイッター上のリツイートやリプライ、メンションによる影響力は全体の0.1─0.3%だった。

同調査によって、これまでファクトチェッカーたちがうすうす感じていたことが明確になった。つまり、彼らが発信する情報が届いているのは、教えられる必要がない人たちなのだ。

調査の結果、ドイツ・フランス・スペイン・イタリア・ポーランドでジャンクニュースにもっとも接する可能性が高い層は、これらのファクトチェック団体の投稿を共有する人たちとほとんど接点がなかった。

<偏って広がる情報>

欧州議会選挙では、極右が席数を増やしたものの、リベラルや環境政党も同様だったため、結局親EU派が議会運営に必要な勢力を維持した。

EUは、票を動かそうとする国をまたいでの大規模な活動は検出されなかったものの、より察知しづらい国内での意見操作に注意すべきだと警告した。

アルト・データ・アナリティクスは、1日に数十件の投稿をするような異常かつ活動過多なユーザーを分析し、どの政治コミュニティーが最も疑わしい投稿にさらされているかを予測した。

すると、わずか1%以下のユーザー(多くはポピュリスト政党や極右政党を支持していた)が、政治関連の投稿の10%を生産していることがわかった。

彼らはネットワークを反移民主義、反イスラム、そして反体制的メッセージであふれさせていた。この調査結果は、欧州議会選挙前に市民活動団体AVAAZや教育機関オックスフォード・インターネット・インスティテュートが行った調査結果の傾向とも合致する。

これらのメッセージを反証しようとするファクトチェッカーたちの努力が、影響を受けたコミュニティーに達することはほとんどなかった。

欧州議会選挙に向けての1か月間、ジャンクニュースがツイッターのトラフィックの21%を占めたポーランドでは、ファクトチェッカーたちが生産した情報は、主に与党「法と正義」に反対する人々の間で共有された。EU圏の主要言語7カ国語におけるこの割合の平均は4%だった。

約1年前に反体制主義政権が発足したイタリアや、極右政党ボックスが躍進しているスペインでも、ファクトチェッカーが発信した情報は極めて偏った広がり方を見せた。

イタリアで活動する7つのファクトチェック団体による投稿のリツイート、メンション、リプライの過半数(大半は移民に関する内容)は、中道左派の民主党に共感を覚えるユーザーたちによるものだった。

欧州議会選挙で第3位の勢力に躍進した、イタリアのサルビーニ副首相率いる右派政党「同盟」の支持者らに一定以上の足跡を残せた団体は、7つのうちわずか2つだった。

例を挙げると、イタリアのファクトチェッカー「オープンオンライン」の投稿には、民主党に好意的なユーザーから4594件のリツイート・メンション・リプライがあったのに対し、同盟に好意的なユーザーからはわずか387件の反応しか得られなかった。

主要メディア内に置かれていることが多いフランスのファクトチェック団体は、他よりよい結果を出していた。マクロン大統領についての嘘の情報などを反証する情報は、他国と比べ、多様なオンラインコミュニティーに満遍なく共有されていた。

ドイツでは、6つのファクトチェック団体のツイートに反応したのは、調査対象となったユーザーのわずか2.2%にとどまった。

アルト・データ・アナリティクスの調査には限界もある。オープンに手に入るツイッターのデータが、さまざまなプラットフォームにおけるオンライン上の会話の全体像を正確に反映するわけではないし、調査は5月の選挙とともに終了している。また、「偽情報」をどう定義するかという問題もある。

また、利用者の多いフェイスブックのデータも含まれていない。

<言論の自由とは>

フェイスブックによると、誰かの投稿がファクトチェッカーによってフラグ付けされた場合、その投稿はニュースフィードの中で「ダウングレード」され、閲覧できる人数が狭められる。また、誰かがそれを共有しようとした場合、警告が出るという。繰り返しそういった投稿を行う人物のページには制限がかかり、広告収入が入らなくなる。

フェイスブックは、コンテンツの削除をしない理由について、「言論の自由」が狭められる懸念を挙げる。例えば、投票に行く人たちを減らす目的で間違った選挙日を広めようとする投稿は削除するが、そういったケース以外では、明らかに間違っている情報と、党派的なコメントを区別することは難しいという。

ソーシャルメディア上のフェイクニュースの拡散とともにファクトチェック団体の存在感も強まってきた。これを受け、こういった団体も、自分たちの活動を考え直す時期に来ている。

以前は、政治家らの責任を問うことに重点を置いていたファクトチェッカーらは、現在はどのように幅広い人々に影響を与えられるかを模索している。

フェイスブックと提携するスペインのファクトチェック団体「Maldita.es」共同創設者のクララ・ヒメネス氏は、偽ニュースが広まる方法を真似することでリーチを広げようとしている。つまり、共有したくなるようなミームや動画を使うのだ。

同団体は対話アプリ「ワッツアップ」で主に活動しており、ユーザーらに、自分のネットワークで最初にフェイクニュースを共有してきた人たちに反証する情報を送るよう呼びかけている。

メディアリテラシーの向上を推進する活動も行うヒメネス氏は、「生身の人間にリーチする努力をしなくては」と語る。「何度も聞かれたことがある質問で、『蚊に刺されて妊娠するのは本当か』というのがあった。こんなことを信じる人がいるのなら、私たちが直面している問題は非常に深刻だ」

(翻訳:宗えりか、編集:山口香子)

Reuters
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