アングル:G20で米中首脳会談へ、残された通商カードは何か

2019/06/21 更新: 2019/06/21

[ワシントン 19日 ロイター] – 米中貿易戦争の激化は、両国が相手から譲歩を引き出そうと圧力を強め合うなか、関税措置の応酬を越えた領域に突入している。

トランプ米大統領と中国の習近平国家主席は、今月28─29日に開かれる20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)に合わせて首脳会談を開く。

トランプ氏は、会談で貿易協議が進展しなければ、中国からの輸入品に追加関税を課すと表明している。一方で中国の国営メディアによると、中国が次の交渉材料としてレアアース(希土類)を使ってもおかしくない。米国は衛星から電気自動車用バッテリーに至るハイテク製品の生産に必要なレアアースの供給を中国に依存している。

米中双方が今後取り得る手段を検証した。

<中国が取り得る措置>

●レアアースを標的に

習近平・国家主席は5月、中国南部のレアアース企業を訪問した。貿易戦争の一環で、ハイテク機器や軍事装備に不可欠なレアアースの供給を停止するのではないかとの憶測が飛び交った。中国は、米国が使うレアアースの80%を供給している。

●関税の引き上げ

中国は、現在も報復関税を課していない100億ドル(1兆800億円)相当の米製品に、関税を課すことができる。

中国政府は昨年12月に米国車に対する関税の一部を撤回しているが、それを再度課税することもできる。

中国はまた、大豆などの一部米製品の関税率を25%からさらに引き上げることができる。貿易戦争が激化するまで、中国は米国産大豆の最大の輸入国だったが、これを機に輸入はほとんど止まってしまった。

再度関税率が引き上げられれば、中国の大豆輸入業者は2018年と同様、ブラジルなどからの調達を増やすことになり、米国の農家に打撃となるだろう。これは、2016年の米大統領選でトランプ氏勝利に貢献した農業層を狙った関税といえる。

半導体やその製造装置など、ハイテク製品に対する関税が引き上げられる可能性は低い。代替の供給元を探すのは中国にとって難しいからだ。

中国はこれまでのところ、米国からの輸入品として最も高価な航空機大手ボーイング<BA.N>の旅客機は関税対象にしていない。中国の航空会社は、増大する需要に応えようと拡大を急いでおり、ボーイング機に関税を課せば、国内旅客業の発展を遅らせる可能性がある。

中国が、ボーイングの代わりに欧州のエアバス<AIR.PA>から調達を増やす可能性はある。客室内の通路が1本の国産狭胴型ジェット旅客機「C919」が完成するまでの間、欧州への依存が数年に渡って高まることになる。

●米国債の売却

中国は最大の米国債保有国であり、約1兆1200億ドル分を保有している。外貨準備の安全な保管方法として、米国債を購入しているのだ。

中国共産党系メディア環球時報の編集長は5月、「米国債を売却する可能性とその具体的なやり方について、多くの中国の研究者が議論している」とツイートした。

中国側が保有米国債を売却すれば米金利は急上昇し、融資のコストが押し上げられる。米連邦準備理事会(FRB)は、指標となる金利を引き下げたり、米国債を買い入れるなどの対応を迫られるだろう。

中国は3月、償還までの期間がここ2年半で最も長い米国債を売却した。

だが、大規模に売却すれば、米国債相場の下落を通じて中国の外貨準備資産の価値を損なうため、実施される可能性は低いと、多くの中国専門家は指摘する。中国は安全で利回りの良い代替投資先を急ぎ探さなければならない。

●通貨切り下げ

人民元を一度限り切り下げ、米国から関税を課されても輸出競争力を増強する案を提言するアナリストもいる。だがそれは、国内外の投資家を動揺させ、「為替操作国」に制裁を科す材料を米側に与えるだけだろう。

「(通貨切り下げは)報復ではない。貿易戦争の激化だ」と、米ピーターソン国際経済研究所のゲリー・ハフバウワー上級研究員は言う。

人民元は、米当局が最初に中国製品から関税を徴収し始めた2018年7月以降、4%近く下落している。これにより、関税措置が中国の輸出品に及ぼす影響が幾分吸収されている。

●米企業にいやがらせ、ビザ発給を遅らせる

中国商務省は5月31日、中国企業に損害を与える恐れのある「信頼できない」外国企業や組織、個人のリストを作成する方針を表明したと、国営ラジオ局は報じた。

これは、特定の国や企業を名指ししたものではないが、同省の報道官は「信頼できない」リストには、市場のルールや契約の精神を無視したり、商業上以外の理由で中国企業への供給を止めたり、中国企業の「正当な権利や利益を大きく損なう」企業などが含まれると述べたと、同ラジオ局は報じた。

中国は、米アップル<AAPL.O>など大手企業を標的にする可能性があるが、数百万人の中国人が同社に関連した雇用に依存しているため、逆効果となる可能性もある。

米金融大手ゴールドマン・サックス[GSGSC.UL]は、中国がアップル製品を禁止すれば、同社の利益は約3分の1減少すると推計する。アップルや他の米企業はまた、中国消費者によるボイコットにも脆弱だ。

これには前例がある。米国が韓国にミサイル防衛システムを配備したことに中国政府が怒り、韓国企業がボイコットの対象となった。

中国政府は、税務調査や免許停止などの行政手段を使い、米銀やコーヒーチェーン大手スターバックス<SBUX.O>、宅配大手フェデックス<FDX.N>、エネルギーや穀物を扱うコモディディ企業などを締め付けることもできる。

一方で、米国の大手企業は政府に対し、穏健な立場を取るよう迫ってきた。中国政府がこうした企業に厳しい態度を取っても、自分たちの助けにならない。また、多くが中国企業と共同で事業を運営しており、それらが損害を受けかねない。

米中ともに、すでに就学ビザの発給を遅らせている。今後、企業幹部や政府関係者に対しても同じ措置が取られる可能性がある。

●外交上の「非協力」と軍の配備

北朝鮮やイランといった国際的な問題で、米国への協力を減らす可能性がある。また、南シナ海や台湾周辺で軍事活動を拡大する可能性がある。

<米国のカードは>

一方、米国の対抗策としては以下の措置が考えられる。

●追加関税

米国は中国からの輸入品に課す関税を引き上げる可能性があり、その権限はトランプ大統領が握っている。

トランプ政権はこれまで関税の対象外だった中国製品への課税へ向け準備を進めている。

さらに1つの選択肢として、機械や半導体、自動車・航空機部品、電子部品など昨年7月と8月に関税を課した中国製ハイテク製品の税率を引き上げる措置が考えられる。

●中国企業に対する制裁

米国は、知財窃盗や制裁違反、人権侵害などがすでに指摘されている中国企業に追加制裁を課す可能性がある。

トランプ政権がファーウェイに行ったような、特別な許可なしに米企業と取引することを禁止するブラックリスト対象企業を拡大するかもしれない。

米政府はすでに、中国の監視カメラ大手、杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)や浙江大華技術(ダーファ・テクノロジー)への制裁措置を検討している。両社とも、少数民族ウイグル族などイスラム教徒の収容施設における監視に関与している。

問題は、対象となる中国企業と取引のある米企業もダメージを受けることだ。

米政府はまた、次世代通信規格「5G」からファーウェイを排除するよう、外国政府への圧力を強化することもできる。

●司法省による取り締まり

司法省は、中国からの経済や安全保障面での脅威に対抗するための取り組みの一環として、引き続き米企業から技術や営業秘密を盗む中国のスパイやハッカーの摘発を続ける可能性が高い。

●外交と軍事力の使い道

米軍は台湾海峡や南シナ海で「航行の自由」作戦を継続しており、すでに緊張が高まっている。中国側は、自国の一部とみなす台湾への主権を確認するために、必要とあれば武力行使も辞さない構えを強めている。

米艦艇は今年に入り、少なくとも月1回は台湾海峡を航行している。米国はこうした航行作戦を昨年7月に再開させた。

トランプ政権は、ウイグル族に対する人権侵害の容疑がある中国政府の有力高官に制裁を課すこともできる。

また、北朝鮮の核開発計画に資金や資材を提供している中国企業の摘発を強化する可能性もある。

(翻訳:山口香子、編集:久保信博)

Reuters
関連特集: 国際