貿易摩擦で誤ちを重ねる習主席 背後に王滬寧氏の影

2019/06/05 更新: 2019/06/05

トランプ政権は、中国が米中通商協議での約束を覆したとして、5月10日から2000億ドル相当の中国製品への追加関税を10%から25%に引き上げた。昨年から回数を重ねてきた協議は合意を目前にして暗礁に乗り上げた。そして1カ月経った今も、中国は局面打開の糸口を見出していない。

米紙ウォール・ストリート・ジャーナル同月9日付の報道は、中国が判断を誤ったと指摘。中国当局は、米経済が減速すれば、トランプ政権の対中強硬姿勢は軟化するだろうと予測したという。

ニューヨーク・タイムズも、貿易交渉関係者や専門家などの分析を基に、習近平主席の判断で中国側が約束を撤回したとの見方を示した。

米中貿易摩擦をめぐってこれまでも誤った判断を重ねてきた習主席について、偽の情報にミスリードされているとの分析が出ている。このミスリードを主導しているのが習近平氏のブレーンで、チャイナ・セブンのメンバーである王滬寧氏とみられる。

誤った判断で貿易摩擦が激化

中国は2017年11月、訪中するトランプ大統領を、紫禁城を貸し切るなど「国賓以上」の厚遇でもてなした。大統領の機嫌取りに成功すれば「トランプ氏は面倒を引き起こすことはないだろう」というその考えが実に甘かった。

トランプ氏は滞在中、米中貿易問題について「中国(当局)のせいにしていない。私の前任のせいだ。前大統領のせいで、中国(当局)が甘い汁を吸ってきた」と話した。

習近平氏のブレーンや各メディアなどは、この発言の真意を汲み取ることができなかった。なかでも、香港紙・明報2017年11月10日付の報道が典型的だった。

同報道は、「自信満々のトランプ大統領に対して、中国当局は国賓として皇帝級のもてなしを見せた。トランプ大統領もそれを楽しんでいたが、結局は中国当局が勝者であるかもしれない」とした。

そして、2018年5月に第一回米中貿易協議が行われた。ニューヨーク・タイムズは当時、中国代表団に近い情報筋の話として、中国当局が財務長官ムニューシン氏と商務長官ロス氏からの支持を得ようと試みていると報道した。中国当局は、ウォール街と深いつながりのあるムニューシン氏とロス氏が、米中貿易の不均衡が生じたのは政治体制の問題ではないという考えを受け入れると判断した。このため、中国当局はムニューシン氏らに秋波を送った。これが最初の誤判であろう。

トランプ政権内の対中穏健派と見なされているとムニューシン氏。同氏は2018年5月21日、トランプ政権は最大1500億ドル相当の中国製品への追加関税措置を棚上げすることを明らかにした。さらに、中国通信機器大手の中興通訊(ZTE)への制裁措置について、ムニューシン氏は、米政府は「ZTEの倒産を望んでいない」と述べた。

しかし米国会の強い圧力の下で、トランプ大統領は対中制裁関税措置の発動やZTE問題などについて、より厳しい姿勢を示した。ナバロ委員長も公の場で、ムニューシン財務長官の「制裁関税の棚上げ」発言を否定した。

米ワシントンで2回目の米中閣僚級通商協議が終了後、中国政府系メディアが一斉に、「米国が約束を破った」と批判した。これは、習近平政権が、トランプ米政権の対中政策について見通しがつかず、誤ってムニューシン長官らに賭けてしまったという状況を反映した。

米政府は2018年7月6日と8月23日、それぞれ340億ドルと160億ドル相当の中国製品に対して25%の追加関税を発動した。

「不倒翁」王滬寧の影

米の制裁関税への対応から王氏の影響力が垣間見える。

昨年5月、中国当局は盛大にカール・マルクス生誕200周年のイベントを行い、最高指導部が「共産党宣言」を再学習したという。中国人民大学の向松祚教授が昨年12月に行った講演によると、中国の多くの実業家がこれに驚きを隠せなかったという。「共産党宣言」は私有制度、資産階級(資産家)の消滅を目標に掲げているからだ。

9月、トランプ大統領は2000億ドル相当の中国製品への関税を10%に引き上げ、米中貿易戦がぼっ発した。同月25~28日、習近平国家主席は中国東北部の3つの省を視察し、毛沢東時代によく用いられた「自力更生」のスローガンを口にした。翌月、習主席が広東省にある企業、格力集団を視察した際、再び「自力更生」に言及した。

今年5月10日、トランプ政権が対中制裁関税を引き上げた後、習近平政権の毛沢東路線を踏襲する姿勢がより鮮明になった。

国営中央テレビ放送はゴールデンタイムに、「英雄児女」など朝鮮戦争を題材にした反米映画を放送し、国民の民族主義感情を刺激することを狙った。人民日報も5月14~22日まで、9日間連続で反米の評論記事を発表した。

また、中国共産党中央政治局が5月13日の会議で、6月以降全党員に「初心を忘れず、使命を銘記」という思想教育を徹底的に行うことを決定した。会議はまた、全党員に対して「党の執政の階級基礎と群衆基礎を絶えず固めよう」と求めた。

「階級」と「群衆」は、共産主義理論のキーワードだ。中国国民に、文化大革命を彷彿させた。約10年間に及ぶ文化大革命では、毛沢東らが呼び掛けた「階級闘争」で、数多くの知識人が粛清された。

習主席は5月20日、江西省の紅軍長征出発記念碑に献花し、翌日には地元幹部との座談会に出席した。座談会で習主席は、複数回「長征」に言及し、各地の幹部に対して「(長征の)再出発を準備せよ」と指示した。同時に、習主席は同省のレアアース産業も視察した。

習近平氏が毛沢東思想を持ちだしたのは、王滬寧氏と大きく関係するとみられる。党の指導理論の構想に長けている学者出身の王滬寧氏は、江沢民元国家主席の右腕である曽慶紅の推薦によって、江沢民に党中央政策研究室政治組の責任者に抜てきされ、党のプロパガンダを担当した。江沢民時代に「三つの代表」、胡錦涛時代に「科学発展観」などの思想理論の起草を主導した。

王氏が10年間以上、「江沢民と胡錦濤」、「江沢民と習近平」の権力闘争を生き抜き、「政界の不倒翁」との異名を持つ。

習近平氏は、王滬寧氏の助力で19大以降、「党の核心」という最高の地位を得た。この過程で、同様に共産原理主義がフルに活用された。つまり、反腐敗運動を通じて、党内の政敵を次から次へと排除し、「党の核心」という地位を獲得した。

一方、反腐敗キャンペーンで、最も大きな打撃を受けたのは、王滬寧氏にとって恩人ともいえる江沢民の派閥だ。

現在、習近平氏が毛沢東の「階級闘争」を持ち出し、米中貿易戦に応戦しているのは、王滬寧氏が企てた策略だと推測する。

米中双方は、貿易不均衡から、ハイテク、軍事、人権問題まで、いわゆる「米中冷戦」へと全面的な対決に発展している。しかし、習近平政権は、党内のし烈な権力闘争、経済悪化、失業者急増、反体制の抗議者の拡大、アフリカ豚コレラのまん延などさまざまな難題を抱えている。中国当局には、米中冷戦の勝算はなさそうだ。

失敗すれば、江沢民派らはすべての責任を習近平氏に押し付ける可能性が高い。あるいは、江派が習近平氏の失脚を狙い、王滬寧氏を利用して、習氏に偽りの情報や誤った戦略を提供したかもしれない。

米ソ冷戦は、ソ連の解体という結末で幕を下ろした。今の情勢から、貿易摩擦に端を発した米中冷戦で、中国共産党政権の崩壊が現実味を帯びている。

(翻訳編集・張哲)