[ニューデリー 4日 ロイター] – インド軍がパキスタン領域内で先週空爆を実施したことを受け、数カ月後に総選挙を控えたモディ首相の支持率が急上昇している。野党側は攻撃の実効性は疑問だと与党批判を繰り広げるが、その戦術も裏目に出ている。
宿敵パキスタンと衝突の最中なのに、自国軍の成果を疑問視しているように見られるのは危ない綱渡りだ。それでも野党幹部らは、インド軍による2月26日の空爆により「非常に数多くの」イスラム過激派メンバーが死亡したという政府が主張するなら証拠を出せ、と迫った。政府は証拠の提出を拒んでいる。
モディ首相は3日の選挙戦演説で「わが軍が国の内外でテロリズムの鎮圧に励んでいるのに、彼らの士気をくじこうとする人々が国内にいる。敵に塩を送っている」と糾弾。野党の国民会議派などに対し「なぜ敵を利する発言をするのか聞きたい」と述べた。
インドでは5月までに総選挙が開かれる。
世論調査機関C─ボーターの創業者ヤシュワント・デシュムク氏はロイターに対し、「野党が国家安全保障を争点に戦い続けても効果はなく、モディ首相を助けるだけだろう」と話した。
空爆以降、C─ボーターは世論調査結果を公表していないが、デシュムク氏によると、モディ首相の支持率は2017年半ば以来の最高水準に急上昇したと推定される。
パキスタンとの衝突が起こる前に実施された世論調査では、景気減速、農村部の低所得、雇用創出に関する政府の無策などを背景に、首相率いる与党インド人民党(BJP)が過半数獲得に苦心すると予想されていた。
しかし世論調査会社と政治アナリストによると、首相の支持率は足元で上昇している。国家安全保障の問題になると、BJPなどの右派政党に追い風が吹くからだ。
ニューデリーのシンクタンク「センター・フォー・ポリシー・リサーチ」のフェローであるラフル・ベルマ氏は「少なくとも選挙の観点では、インドやパキスタンが何をしたかは問題ではない」と語る。
「問題は、メディアとBJP、モディ氏がどのような認識を作り出せるかだ。危機感を生み出し、『われわれは行動を起こした。国を率いる強い男が必要だ』という認識を作れれば優位に立てる。だから細かいことは問題ではないのだ」
<空爆が争点に>
インド軍は先週、カシミール地方での治安部隊に対する自爆攻撃に対する報復として空爆を実施した。政府高官は先週、空爆で少なくとも300人が死亡したと述べた。BJPのアミト・シャー党首は死亡者数を250人以上としている。
パキスタン側は、インドの空爆は概ね人のいない丘で行われ、死人は出なかったと主張した。
野党・国民会議派の指導者ナブジョト・シン・シドゥ氏は4日、「根絶するのはテロリストか、それとも木か。これは選挙のための策略ではないのか。外国軍と戦うふりをした詐欺が我が国に取り付いている。軍を政治利用するのは止めろ。軍は国同様に神聖だ」とツイッターに投稿した。
国民会議派の報道官サンジェイ・ジャー氏も、BJPによる軍事行動の政治利用は「極めて遺憾であり、政治的に道義に反する」と述べた。
しかし世論調査会社は、国民感情が高まっている時に国家安全保障問題でモディ首相に疑問を呈するのは得策ではないかもしれないと指摘。雇用創出や農村問題を巡るBJPの失政に焦点を絞る戦術に戻るべきだとしている。
かつてジャム・カシミール州でBJPと共に政権を担い、昨年BJPと離反したメブーバ・ムフティ氏はツイッターで「野党は、選挙戦の争点を喫緊の課題から空爆にすり変える罠に陥ってはならない」と戒めた。
(Krishna N. Das記者 Devjyot Ghoshal記者)
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