アングル:米国の対中貿易交渉、従来協定と何が違うか

2019/01/22 更新: 2019/01/22

[ワシントン 18日 ロイター] – 米国が中国との協議を通じて目指す通商合意は、従来の貿易協定というよりも、制裁の実効性を監視するための枠組みに近い性質になりそうだ。

事情に詳しい関係者の話では、トランプ政権は中国側に、いかなる合意を結んだとしてもそれを順守しているかどうか定期的な点検作業に応じるよう迫っている。

この点検作業こそが今までの貿易協定にない重要な要素の1つだ。背景には両国の相互不信感の根深さもある。

米中通商協議の特異な性格を具体的に記した。

●中国製品向け関税の脅しはなくなるか

そうならないだろう。両国の交渉は、3月2日に2000億ドル相当の中国製品向けの関税が発動されるのを防ぐのが狙いであるとはいえ、米国は合意した場合に関税を撤廃すると公式には一度も表明していない。米当局者は、どんな合意を結んだ場合でも、関税の脅しを続けることが「武器」になるともみなしている。

また米国が合意順守の点検を求めているのは、中国が過去に市場自由化改革を約束しながら実行してこなかったという不満があるためだ。

●中国は合意の一環として米製品購入を拡大するか

関係者の話では、中国はこれまでに米国の大豆やエネルギー製品を含む財・サービスの追加購入を提案している。ムニューシン財務長官は昨年12月、中国が1兆2000億ドル分の製品を米国から新たに買うとの申し出があったと発言。ブルームバーグは18日、中国が2024年までに対米貿易黒字をゼロにするだけの製品を購入する案を示したと伝えた。

もっともエコノミストは、米国経済と消費の強さが輸入需要の拡大を意味する点を踏まえれば、同国の貿易赤字を大きく減らすのは難しいと主張している。

米国の対中貿易赤字は2017年が3750億ドルで、18年はそれを上回ったと見込まれている。

●通常の貿易協定との違いは

従来の自由貿易協定は、当事者間の貿易障壁を引き下げることが狙いだ。特定の品目購入の合意は含まれないのが普通。当事者は合意条件を守るとの前提で、お互いの貿易や輸出機会が増えるメリットがあるとして協定が結ばれる。

一方、トランプ政権は中国製品に新たな関税を導入し、中国の貿易や補助金、知的財産を巡る慣行を強制的に変えようとしている。これは米国が外国の政府の行動や政策の修正を目的に実施してきた各種制裁と同じ仕組みだ。

このような制裁は、米財務省が望ましい変化が起きたと確認された後でしか解除されない。

●従来の貿易協定の実効性はどのように担保されるか

多くの自由貿易協定には、当事国政府同士のルール順守を巡る対立や、民間投資家と政府のもめごと、ダンピングや補助金といった不公正慣行の申し立てなどの紛争解決メカニズムが含まれている。

紛争処理委員会が双方の言い分を聞き、裁判所のような役割を果たす。例えばカナダは以前、同国の針葉樹製材に米国が反補助金関税を課したことを巡り、北米自由貿易協定(NAFTA)の条項に基づいて紛争処理機関に異議を申し立てた。こうした手続きの制度は、新たな米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が批准されれば、引き継がれる。

●WTOへの提訴は

世界貿易機関(WTO)加盟164カ国・地域は、不当な貿易制限や補助金、その他不公正慣行があればお互いに提訴し、紛争処理委員会を通じて解決を求めることができる。

ただしこの手続きは時間がかかり、判決が出ても対象国への強制力は乏しい。

米国はかねて、WTOが中国の不公正な慣行を抑えられなかったので、自らの力で中国に是正を迫っていると強調している。

さらにWTOの上級委員会は、米政府が新委員の任命を阻止しているので、年内に機能を停止しかねない。

●貿易協定が気に入らなければ廃止できるか

それは可能だ。ほとんどの貿易協定には廃止条項が盛り込まれている。ただ米国はいままでそれを試したことはない。トランプ政権はNAFTA再交渉の場でしばしば廃止をほのめかした経緯もあるが、一部議員や法律専門家は、大統領に議会の同意なしでNAFTAを廃止する権限はないのではないかと指摘している。

Reuters
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