分析:人民日報、なぜ「愚民化政策」にメリットとなるゲーム依存を猛批判?

2017/07/06 更新: 2017/07/06

中国共産党機関紙「人民日報」はこのほど、国内ネットサービス大手の騰訊控股(テンセント、以下は騰訊)が提供するスマートフォン向けゲーム「王者栄耀」が、社会的な悪影響を与えたとして猛烈に批判した。この影響で、4日の香港株式市場では、同社株価は前営業日比で一時5%安となった。

専門家は、当局の国内大手企業に対する痛烈な批判は異例で、同社の管理層が党内派閥闘争に関わり、今後、習近平当局の反腐敗対象になる可能性が高いと推測した。

スマホゲーム「王者栄耀」が社会問題に

人気アプリ「WeChat」中国番号で登録後
国外でも引き続き検閲=研究

人民日報は3日と4日、2日間連続で評論記事を掲載して騰訊を批判した。週明け月曜日の香港株式市場では、騰訊株価終値は前営業日比4.13%安の269.20香港ドルを付けた。株価の急落で、同社の時価総額が1099億香港ドルが消えた。騰訊を含む主要50銘柄で構成される香港ハンセン指数終値も、騰訊株価の急落で、前営業日比1.53%安の25389.01ポイントとなった。

近年、米国や韓国のゲーム開発企業を積極的に買収してきた騰訊が昨年86億ドル(約9718億円)の資金で、フィンランドゲーム大手「スーパーセル」の株式の84.3%を取得した。この企業買収を通じて、騰訊はグローバルゲーム市場の最大手となった。

また業界関係者による、同社が2015年11月にサービス提供を開始したスマホゲーム「王者栄耀」の今年1~3月期売り上げは60億人民元(約996億円)を達した。同期、日本のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)企業の株式会社ミクシィが提供するスマホゲーム「モンスターストライク」の売り上げ3億ドル(約339億円)を超えた。

中国国内では「王者栄耀」のユーザー数は2億人以上だ。そのうち、2000年以降生まれた10代の若者は全体の2割を占め、12歳以下の子供は4%だという。しかし、同ゲームに依存しすぎて、若年層ユーザーらの健康被害などの社会問題が頻繁に報道されている。

人民日報は、「13歳の学生ユーザーが父親にゲームをやり過ぎたと叱られた後、飛び降り自殺を図った。11歳の女の子は同ゲームに必要な「武器」を購入するのに、クレジットカードを盗み、総額10万元(約166万円)以上を使った。17歳の少年が同ゲームを40時間連続に利用した後、脳卒中を起こした」との事例を挙げ、同ゲームは「人生を陥れた」として、「一日も早くオンラインゲームへの監督管理を実行すべきだ」と評した。

「愚民化政策に好都合」なゲーム中毒 なぜ批判?時事評論員が分析

ネットサービス大手テンセント「騰訊控股」のCEO馬化騰氏は、5月28日、貴陽で開かれたビッグ・データに関する展示会に出席し講演(Lintao Zhang/Getty Images)
 

時事評論員の陶傑氏は、テレビゲームやスマホゲームへの依存は社会全体と青少年に害を与えているとした上、党機関紙が国内大手IT企業への激しい叩きは「普通ではない」と述べ、党内派閥間の権力闘争に関係すると分析する。

「なぜなら中国共産党政権は、今まで国内の各社会問題に真剣に取り込んだことなどない。むしろ国民がゲーム依存になってくれれば、当局の愚民化政策に好都合だ」と指摘した。

陶氏によると、近日国内では「中国の不動産王」と呼ばれている富豪の王健林氏が率いる大連万達グループに対して、中国の金融当局が同社の海外企業買収案をめぐって調査を行っているため、同社の株価と債券価格が急落した。

反腐敗キャンペーン、次は富豪や大企業経営者か

習近平政権の反腐敗キャンペーン、次のステージへ
党高官の外戚まで調査対象に

万達グループの王健林会長や、騰訊控股の馬化騰会長などに不利な報道が続くことから、今後習近平当局による反腐敗キャンペーンの対象は、政府高官と癒着する企業経営者や富豪らに拡大するとみる。中には、特に江沢民派閥と強い関係を持つ富豪が粛正のターゲットとなる可能性が高い。

1998年に創業された騰訊は、2004年6月に香港市場に上場を果たしてから、急速に事業を拡大してきた。大紀元中国語版は過去、同社が中国IT最大手に成長した背後に江沢民派閥からの絶大な支持があり、江の姪が同社の高級管理職を務めていると報道した。

中国最高指導部に近い情報筋は過去、大紀元に対して、今年下半期において習近平当局は国内民間企業と芸能界に重点を置いて反腐敗運動を推し進めていくと話した。今後、当局からの取り締まりを受ける富豪が増えるだろうとみる。

いっぽう、騰訊控股傘下のチャットアプリ「微信(ウィーチャット、WeChat)」」のユーザー数は10億人を超えている。しかし、中国当局がネット通信への監視を強化し、微信の利用者、特に人権・民主運動活動家のチャット内容が当局に転送され、監視と検閲を受けていると指摘されている。

国内メディアの報道によると、すでに失脚している江派中心人物の周永康は、2011年7月19日広東省深セン市にある騰訊の本社を視察し、ネット監督管理の強化を求めた。その直後に、中国情報機関の国家安全部が騰訊の通信データ業務に介入し、データのフィルタリングとネット監視を行った。

(記者・梁珍=香港、翻訳編集・張哲)

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